巨大化が進むレーザー加速器の卓上サイズ化に向け一歩前進した。大阪大学産業科学研究所などの研究グループは、従来のレーザー加速器と比べて1000倍以上という強い加速電場を創出できる「レーザー航跡場加速」で生成した電子ビームを用いて、自由電子レーザーの発振に成功した。
大阪大学産業科学研究所は2026年2月19日、大阪市内とオンラインで記者会見を開き、レーザー航跡場加速(Laser Wakefield Acceleration:LWFA)で生成した電子ビームを用いて、27n〜50nmの極端紫外線(XUV)領域で自由電子レーザー(Free Electron Laser:FEL)の発振に成功したと発表した。
この成果は、大阪大学産業科学研究所 教授 兼 理化学研究所放射光科学研究センター チームリーダーの細貝知直氏、量子科学技術研究開発機構(QST) 関西光量子科学研究所 所長 兼 大阪大学産業科学研究所 招聘(しょうへい)教授の神門正城氏、高エネルギー加速器研究機構(KEK) 物質構造科学研究所 名誉教授の山本樹氏らの研究開発グループによるものだ。
LWFAは、高強度レーザーをガスに照射してプラズマを生成し、その中に形成される「レーザー航跡場」と呼ばれる強力な電場を利用して電子を加速する新しい加速器技術を指す。
FELは、加速器によって高エネルギーまで加速された電子ビームを、磁石を交互に配置したアンジュレータと呼ばれる装置に導入することで発生するレーザー光だ。
X線領域のFEL「XFEL」は、フェムト秒(1000兆分の1秒)オーダーの超短パルスで、太陽の100億倍に相当する超高輝度かつコヒーレント(波の位相や振幅がそろっている状態)なX線を発生できる強力な光源だ。
この光源は、原子/分子の構造変化を「動画のように」観測できることから、原子配列の観察、次世代半導体材料の微細構造解析、化学反応や生命分子の超高速ダイナミクス計測など、さまざまな研究で活用されている。
しかし、XFELの発振には高エネルギーかつ高品質の電子ビームが必要であり、長さ数百mの高エネルギー加速器を備えた大型施設が必要だ。
大阪大学 産業科学研究所 特任教授の佐野雄二氏は「近年、レーザー加速器が巨大化している。一例を挙げると、スイスのジュネーブにあるレーザー加速器『大型ハドロン衝突型加速器(LHC)』の周径(全長)は、山手線1周分とほぼ同じくらいだ」と触れた。
細貝氏は「放射光施設では、短い波長の放射光を照射するために、高いエネルギーが必要になる。例えば、兵庫県佐用町のXFEL施設『SACLA(サクラ)』では、400mのレーザー加速器を用いてレーザーを加速する。このような巨大なレーザー加速器を用いて、8ギガエレクトロンボルト(GeV)という高エネルギーの電子ビームを照射できる。こういった施設の建設には大きなコストと広い場所が必要となる」と補足した。
そこで注目されているのが、高強度のレーザー照射によってプラズマを作り、そのプラズマの中で電子を加速するLWFAだ。LWFAは加速器を小型化できる可能性を持つ一方、プラズマの制御が難しく、発生する電子ビームの品質にばらつきが大きいため、安定な高品質電子ビームを必要とするFELさらにはXFELの発振には至っていなかった。
細貝氏は「LWFAは開発途上で、現在は扱えるエネルギーは小さいが、大きな『加速勾配』を備えている。将来は加速器を大幅に小型化できる技術だとされている」と話す。LWFAの基本原理は既に基礎研究で実証されており、30cmほどの距離で最大10GeVまで電子を加速できることが確認されている。
LWFAのイメージについて、「親鴨が泳ぐ後ろに子鴨が付いてくる様子をイメージしてほしい。親鴨が進むと後ろに『航跡波(ウェークフィールド)』と呼ばれる波が生じる。モーターボートの後ろに波ができる現象と同じだ。そこにサーファーが乗れば、波から力を受けて前に進める。プラズマとレーザーを使い、この原理によりプラズマ波を起こして電子に運動エネルギーを与えるのが『LWFA』の基本原理だ」と細貝氏は説明する。
さらに、「プラズマ波の『加速』の位相に電子が乗って進むが、逆の位相だと加速されない。この『波乗り』をいかにうまく制御するかがポイントだ。レーザーパルスという『光の塊』を親鴨とすると、親鴨が進んだ後ろに非常に強いプラズマ波が立つ。このプラズマ波は、従来のレーザー加速器と比べて1000倍以上という強い加速電場を創出できる。加速距離は『エネルギー÷加速電場』で導き出せる。加速電場が1000倍になれば距離を1000分の1にできる。つまり、LWFAはレーザー加速器で1km必要だった加速距離を1mに短縮可能だ」と付け加えた。
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