関税で変わるサプライチェーン、ジャストインタイムからジャストインケースへ製造マネジメントニュース(2/2 ページ)

» 2025年10月15日 06時30分 公開
[齊藤由希MONOist]
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そもそも追加関税とは

 EY税理士法人 インダイレクトタックス パートナーの大平洋一氏はこれまでの自由貿易を前提とした関税管理から、流動的な状況での管理をどう考えていくかを説明した。

 相互関税の追加関税は、これまで高くても5%前後だった関税を2桁パーセント台に引き上げた。追加関税は、国単位で課すものと、特定のセクターに対する課税の2つがある。追加関税なので通常の税率に上乗せされる。

 自動車に加えて、鉄鋼、アルミ、銅、木材、半導体、トラック、医薬品などが追加関税の対象として挙がっているが、セクター別の関税は安全保障上のリスクがあると調査レポートが上がるまで課税できず、調査レポートが上がり次第、セクター別の関税が順次発動する。

 国別の追加関税は2パターンある。1つが日本などへの相互関税で、もう1つは中国、メキシコ、カナダに対する麻薬や不法移民の流入への歯止めを目的としているものだ。麻薬や不法移民は国にとっての緊急事態であるため、法律に基づいて大統領の権限で貿易を規制できるとトランプ政権は見なしている。

 ただ、「緊急事態だとしてもこの関税は違法だ」と国際貿易裁判所で判断された。控訴審でも違法だとされたため、トランプ政権は今後、最高裁で争うことになる。最高裁でもトランプ政権の関税は違法だと判断されれば、撤回されて税が還付対象になるとみられる。ただ、他の法律に基づいた関税を課すことはできるため、形を変えて課税され続ける可能性がある。

 どこの国で作るかによって税率が大きく変わってくるため、原産地管理や関税を考慮した移転価格のプランニングが一層重要になる。

 関税の支払いは税率に対して決まるので、課税価格をいかに圧縮するかがカギを握る。実質的には移転価格税制とセットで考える必要があり、法人税上のリスクを軽減するだけでなく、関税コストの緩和としても重要だとしている。輸入形態によって、自動車関税の扱いになるか、相互関税の扱いになるかが決まることを踏まえた関税分類プランニングも重要になる。

 「関税は流動的で上がったり下がったりする可能性は今後もあるが、0%にはもうならない。今後も2桁パーセントの課税がかかり続け、他国も報復してくる可能性がある。自由貿易体制での関税管理とは異なり、ある日突然税率が上がったとしても速やかに対応し、工夫するためのマネジメントの重要性が今後高まる」(大平氏)

日本本社と海外子会社の関係

 トランプ関税を受けて地産地消が進むと考えられるが、日本企業は日本の本社と海外子会社との関係も変わってくる可能性がある。

 日系企業は研究開発機能を本社が担い、無形資産として米国など海外の販売子会社や生産子会社などに使用許諾を出すビジネスモデルが多い。海外子会社は必要なリターン=営業利益を受け取り、残りの営業利益を日本の本社のものとする構図を踏まえて日本の税務当局は課税してきた。

 地産地消が進めば、海外の税務当局はこれまで通りの営業利益の配分ではなく、もっと大きなリターンや利益分割が正しいと主張してくる可能性があるという。海外子会社で開発を行う場合に日本の本社と海外子会社でコストシェアリング契約を結び、利益の分割を決める会社もある。

 「地産地消により、製造拠点を少ない地域にまとめるのは難しくなる可能性があるが、集中購買モデルなどまだ集約できる機能はある」とEY税理士法人 移転価格アドバイザリー パートナーの山田早苗氏は説明した。

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