EY Japanは「地政学とトランプ関税が導くビジネスの未来:サプライチェーン戦略の再構築」と題したWebキャストを実施した。
EY Japanは2025年9月3日、「地政学とトランプ関税が導くビジネスの未来:サプライチェーン戦略の再構築」と題したWebキャストを実施した。
米国はエネルギー自給率が高く、人口も増加しており、突出した経済規模を持つ国だ。G7(主要国首脳会議)の7カ国では非常に経済が強いが、その一方で中国からは追い上げられている焦りもあり、転換期を迎えている。
米国の実行関税率の推移をみると現在は1930年代レベルにあり、これまでにない水準に達している。これが世界各国に深刻な影響を及ぼしている。価値に基づきつながっていた西側諸国の同盟は、国同士の力や利害に基づく関係に発展していく。
今後も自由貿易の考えは通用しにくくなり、政策による管理や制約、保護を前提にする必要があるという。
第二次世界大戦後、米国は社会にさまざまな仕組みを敷き、それによって米国はもちろんさまざまな国が恩恵を受けてきた。ただ、米国大統領のドナルド・トランプ氏は「米国がカモにされている」と感じている。米国の国防費の高さや貿易赤字の大きさがその理由だとされている。
経済学者によっては「貿易赤字は悪いことではない」という考えもあるが、トランプ氏には他国が米国市場を食い物にしているように見えている。米国内で貧富の差が拡大し続けており、それに対する不満のはけ口を国防費や貿易赤字に見いだしている。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング EYパルテノン 地政学戦略グループ パートナーの小林暢子氏は「自由貿易が進んで、紛争が減って世界が平和になり、民主主義が勝つというおおらかな世界観があったかもしれないが、その地盤はかなり前から沈下している」と米国を巡る現状を説明した。
貿易が世界経済に占める比重は2008年に急ブレーキがかかってからそれほど回復していないという。中国が大きなプレイヤーになって貿易を拡大しているように見えるが、実際は停滞している。紛争も減ってはいない。2015年以降急増しており、世界は決して平和ではない。
これまでは自由貿易を大前提に、どこで調達して製造し、流通させるのがベストなのか最適なサプライチェーンを組んでいく戦略がとられてきた。EYストラテジー・アンド・コンサルティング サプライチェーン&オペレーションズ パートナーの志田光洋氏は「20〜40年にわたる当たり前が変わっていく中で、どういうことが起きたとしても動的に一定の対応ができるサプライチェーンを組んでいくことが必要になる。JIT(ジャストインタイム)からJIC(ジャストインケース=念のため、万が一)に代わっていく」と説明した。
QCD(品質、コスト、デリバリー)を最適化する従来の考え方は踏襲しつつ、リカバリーのリードタイムを短くして持続性を出すことがポイントになる。その中で求められるのは、世の中で起きていることや予兆をいち早く察知するセンシングだ。また、サプライチェーンにどのような見直しが必要なのかをその場で判断してアクションを起こすことも必要だ。
定性的なリスクなど、グローバルなサプライチェーンに影響する要素を加味しながら今後のサプライチェーンネットワークを考える必要がある。世界を大きく1つで捉えるのではなく、3つほどに分けてシミュレーションすることも役立つ。
これまでのサプライチェーンでは、顧客からの内示や需要にどう部品を供給するかという計画を立ててきた。今後は供給に制約が入った時には、どのような部品の生産計画を立てると最大限のアウトプットが出せるか考える必要がある。シンプルだが、逆に進めるためのデータを持っていない企業も一定数ある。
情報の整備が進んでいないと、どの部品がどの製品に使われているか、どの工場が使えるかなどが把握できておらず、ボトルネックになりかねない。データの整備とともに重要なのがデジタル技術の活用だという。
例えば、供給に影響が出そうになったときに出るアラートを受けて、担当者は影響するオーダーをChatbotで洗い出す。Chatbotは金額順に並べ直すなどのサポートも行い、インタラクティブな状況判断を可能にする。また、ルールベースのAI(人工知能)で「この状況ならこんなアクションが取れそうだ」とレコメンドしてもらえればスピーディーに判断できる。担当レベルで判断できず、複数の部門で決断が必要な場合は、システム上の「War Room」で関係者が集まり、AIも活用しながら情報を共有していく。このように、意思決定をサポートするデータ利活用に取り組んでいる企業もあるという
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