貿易立国日本を支える自動車船の最新ブリッジを「セレステ・エース」で見た!イマドキのフナデジ!(7)(3/3 ページ)

» 2025年10月14日 06時00分 公開
[長浜和也MONOist]
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機関操縦系:主機遠隔操縦装置

 セレステ・エースの主機は、MSR(三井造船システム研究所)のBMS-2000IVで操縦する。レバーはAhead/Astern(前後進)とDS/SL/HA/FUなどの機関状態を指令する“テレグラフ”機能を担い、始動/停止、非常停止(E-STOP)、そして操縦権の授受(Bridge/ECR/Local)までを一体で扱う。

 このレバー操作に対する上位の監視画面が、レバー上段に据え付けられた「M/E BRIDGE INDICATOR」だ。画面の上段にはSpeed Order/Set/Limit/Actualが並び、ブリッジから出した指令、機関側の設定値、保護や運転条件による制限値、そして、軸回転などの実績値を一目で対比できる。さらに、Start Air(始動空気圧)やEngine Load(推定/実測)の表示で、始動系統と負荷の健全性を同じ画面上で追うことができる。燃料と排ガス規制に関わる運転モードはDual FuelとTier II/IIIの表示で明示され、どの燃料モードもしくは規制モードで動いているかを示す。

 中央のShutdown/Start/Controlセクションは、機関スタック要因やインターロック、Take-Commandの状態などを色分けのインジケーターで表示し、始動不可/停止要求/制御権未取得といった“なぜ動かない(動けない)のか”を原因別に切り分けられる。下段にはE/S(Engine Safety)、E/C(Engine Control)、EPS Source、Teleg SourceなどのFail/Alarmランプ群が並び、保護系、制御系、テレグラフ系のどこで異常が起きているかを示す。このおかげで機関オペレーターは、指令→制御→保護→実績の流れのどこで整合が崩れているかを短時間で特定できる。

「セレステ・エース」の主機操縦はBMS-2000IVを基幹システムとして用いている 「セレステ・エース」の主機操縦はBMS-2000IVを基幹システムとして用いている[クリックで拡大]

機関操縦系:スラスター専用コントローラー

 盤面中央の大きな推力ノブは、スラスターの出力指示と方向を定量的に与える。ジョイスティックが“直感的な押し引き”に向くのに対し、このノブは微妙な固定値の再現に適し、一定推力での横押しや、段階的な押し増し/押し戻しを安定して行える。

 ノブの周囲には、REMOTE/LOCAL、CONTROL TAKE/RELEASE、START/STOPといった運転モード、制御権、起動系のボタンが並び、各ボタンに対応する赤、黄、緑の状態灯が用意されている。この並びによって「誰が、いつ、どの状態で操作してよいのか」をコンソール上で判断でき、二重操作や誤介入を避けやすい。異常時はALARM/FAULTの表示灯が点灯し、必要に応じてEMERGENCY STOP(非常停止)で出力を直ちに遮断する。

 上段の小型メーターでは、LOAD IND.(負荷表示)とPITCH IND.(ピッチ表示)が確認できる。可変ピッチ型スラスターでは、PITCH IND.が羽根角の指示と実績を、LOAD IND.が電動機または油圧系の負荷状況を示す。

「セレステ・エース」のスラスター操作卓 「セレステ・エース」のスラスター操作卓。同様のコンソールがブリッジの右舷ウイングも用意されていて接岸離岸操船で用いる[クリックで拡大]

通信制御コンソール+専用プリンタ

 ブリッジの通信系で衛星通信を担うのがInmarsat-C端末だ。その役割は3つに集約できる。第1にDistress(遭難通報)の発報で、専用の非常操作から、船位/時刻/識別情報を添えて遭難信号を衛星経由で送出する。第2に双方向のデータ通信で、短文メッセージ(船陸テレックス相当)の送受で港湾連絡や運航サポートに使える。第3にEGC SafetyNETによる「MSI」(Maritime Safety Information=航行/気象/捜索救助関連情報)の受信で、これは外洋航行中の安全情報の基幹となる。

 端末に接続された専用プリンタは、受信したSafetyNETメッセージ(航行警報/気象警報/SAR情報)や端末ログを紙で保存でき、ブリッジでの掲示、当直間の引継ぎ、監査/証跡の保全に使う。

 衛星系のInmarsat-Cと並び、外洋域で通信を支えるのがMF/HF無線設備だ。DSC(Digital Selective Calling:デジタル選択呼出)で、遭難、緊急、安全の各種通報を音声に先立ってデジタルで発呼する。小型ディスプレイを備え、ここに待受状態、監視している周波数群、受信履歴といった運用情報を常時表示する。遭難の初動では、まずDSCで相手局(沿岸局/周辺船)に緊急度と自船識別/位置を確実に伝え、指定周波数へ移行して音声またはデータ通信に切り替えるのが定石だ。

 同じラックに組み込まれているNBDP(Narrow-Band Direct-Printing)端末は、MF/HF帯を用いた狭帯域の印字通信=テレックス型の文字通信を担う。沿岸無線局からの航行警報や気象情報の受信、船陸間の連絡電報など、音声に頼らず文字で確実に残す目的に適している。通信が混み合う状況や、音声では誤解が生じやすい長文の通達に対して強みがある。

 なお、脇に据えられたDSC/NBDP共用プリンタは、DSCの呼出(送受)ログ、NBDPで受信した本文を自動で印字/保存する。こちらも、ブリッジ掲示や当直引き継ぎ、監査/検証時の紙の証跡として機能し、電子ログと併用することで運用の確度をさらに高める。

「セレステ・エース」のブリッジに設置された通信関係コンソール 「セレステ・エース」のブリッジに設置された通信関係コンソール。左奥側から手前に向かって、Inmarsat-C端末、MF/HF無線設備、NBDP端末の順番に並んでいる[クリックで拡大]

“アナログ”計器の存在意義とは

 ブリッジには、CONNINGやレーダーの右ペインで既に表示している情報と重複するにもかかわらず、あえて独立系として並べられた個別リピーター計器が用意されている。代表例は、風向計/風速計、ドップラースピードログ、クリノメーター(横傾斜計)、舵角指示器、回頭角速度計(ROT)、主軸回転計、水深計などだ。

 いずれも“単機能/専用指示”で、電源や信号経路が複系化されている。その存在意義は単純だが重要かつ不変で、同じ数値が別ルートでも見えることそのものが安全策であり、表示装置のいずれかが不調でも、操船の意思決定を止めないための冗長構成のためだ。

ブリッジ最前列に配置された“アナログ”航海計器 ブリッジ最前列に配置された“アナログ”航海計器。バックアップではあるもののこれがないとブリッジじゃない、というノスタルジックな理由だけでなく、実際操船の場面において一目で認識できる計器は格段に使いやすいという経験的事実もある[クリックで拡大]


 セレステ・エースのブリッジは、CONNINGに“現在値”を集約し、レーダーとECDISで外界と計画の照合、主機テレグラフ(MSR BMS-2000IV)とスラスターで挙動計画(意思)を具現化するという、認知→判断→操作の短経路設計が徹底している。コンソールとディスプレイデザインはUIの一貫性をもたらし、港内でも外洋でも“参照したいデータを見る位置”が変わらない。現場での誤解釈や手戻りを減らす工夫が要所に施されているといえるだろう。

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