ここでは、AirShaperがどのようにして品質の高いメッシュを生成しているのかについて、前述の学術論文を基に見ていきたいと思います。その中核を成す技術は、以下の2点です。
従来のCFDではユーザーがあらかじめ、例えば「車体の周囲10cmは細かいメッシュにする」など、明示的に細分化の条件を設定する必要があります。しかし、AirShaperではこのプロセスが自動化されています。
まず、粗いメッシュで初期の解析を実行し、その結果から「速度変化が大きい領域」や「大規模な渦が発生している領域」などをシステムが自動で判断します。次に、それらの流れ場が複雑な領域(例:リアスポイラーの直後、タイヤと路面の隙間など)のみを自動で選び出し、メッシュを再細分化します。
この処理を繰り返すことで、計算リソースを無駄に消費せずに、必要な箇所にのみ高精度なメッシュが割り当てられ、解析精度の向上と効率化を両立できます。
CFD解析は、計算が時間とともに「安定した状態(収束)」に達したと判断されて初めて、その結果が信頼できるものとなります。
AirShaperでは、計算の残差(数値的な誤差)だけでなく、抗力や揚力といった「力の変化」もリアルタイムで監視し、収束を自動的に検出します。そして、その力が安定した区間に入ったと判断されると、その期間の値を自動的に平均化します。
この「自動収束検出と動的平均化」機能により、ユーザーは「いつ計算を止めればよいか」といった判断に迷うことなく、常に信頼性の高い、安定した数値を得ることができるのです。
なるほど、ここまで読むと、構造解析にも詳しい方であれば、どこかで見覚えのある考え方だと感じられるかもしれません。例えば、構造解析で使われる「H法」などでは、初期メッシュで一度解析を行い、要素ごとの応力勾配などを基に誤差を評価し、設定された閾値を超えた場合にメッシュを細分化するという手法が用いられます。筆者のイメージですが、AirShaperのアプローチも、それに似た概念を持っているように思われました。
CFDにおける形状の下準備やメッシュ生成は、常に悩みの種となる工程です(少なくとも筆者にとっては)。それだけに、AirShaperの自動化機能には大きなインパクトを受けました。
計算が完了すると、Webブラウザ上でシームレスに結果を確認できます。
これらの可視化機能は、直感的で操作しやすい一方で、専門家が設計改善のヒントを得るために必要な情報を的確に提供してくれます。AirShaperは、こうした可視化機能と裏側で動作する自動化技術により、CFDの専門知識を持たない設計者であっても、設計初期の段階から「プロの視点」を取り入れることを可能にしている――そういっても過言ではないでしょう。
今回の実践レビューを通じて、AirShaperは単なる「手軽なSaaSツール」という表面的な印象にとどまらず、その裏側では「OpenFOAM」をベースとした、極めて高度かつロバストな自動化技術が動作していることが分かりました。
CADデータ修復の手間をゼロにし、AMRでメッシュを自動最適化し、さらに収束状態を自動で検出する――これらの機能により、CFDの専門知識がなくても、設計初期段階における形状検討に必要な情報を短時間で得ることができます。
次回の最終回では、AirShaperをビジネスや教育の現場でどのように活用すべきか、コストパフォーマンスの詳細、そして今後の展望について深く考察していく予定です。 (次回へ続く)
水野 操(みずの みさお)
1967年生まれ。mfabrica合同会社 社長。ニコラデザイン・アンド・テクノロジー代表取締役。3D-GAN理事。外資系大手PLMベンダーやコンサルティングファームにて3次元CADやCAE、エンタープライズPDMの導入に携わった他、プロダクトマーケティングやビジネスデベロップメントに従事。2004年11月にニコラデザイン・アンド・テクノロジーを起業し、オリジナルブランドの製品を展開。2016年に新たにmfabrica合同会社を設立し、3D CADやCAE、3Dプリンタ関連事業、製品開発、新規事業支援のサービスを積極的に推進している。著書に著書に『絵ときでわかる3次元CADの本』(日刊工業新聞社刊)などがある。
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