流体解析をテーマに、入門者や初学者でも分かりやすくをモットーに、その基礎を詳しく解説する連載。今回は“流体解析の結果をどのように確認すべきか”をテーマに、流体解析におけるポスト処理について取り上げる。
前回は、流体解析を行う上で必要な条件について述べた。解析する対象を決め、物性値を定義し、境界条件を決めていくという本質的な流れは、構造解析とのある種のアナロジーを使って説明してみた。
今回からこのあたりの条件に関して、もう少し詳しいところに入っていきたいと思っていたが、よく考えてみると“流体解析の結果をどのように確認すべきか”について、きちんと触れていなかったことに気がついた。
ということで、今回は「流体解析におけるポスト処理」について解説することにする。
既に構造解析を行っている人であれば、このあたりの答えは分かり切ったものかもしれない。まず、確認したいのが「変形図」だ。どのように変形しているのか。また、その変形量を把握できれば、条件の設定も含めて解析の妥当性も分かる。
そして、最もお世話になるのが「コンター図」である。見たい数値、例えば応力値などを等高線の形で表示できる。ミーゼス応力などであれば、その数値の高低だけでなく、分布を見れば集中の様子なども分かる。また、先ほどの変形にしても変形量のコンター図を見れば、変形の形だけでなく量も具体的に確認できる。
さらに「ベクトル図」も有効だ。応力でも主応力のようなベクトル量であれば、方向も重要となる。
他にもいくつか表現方法はあるが、主にこれらの表現を用いて解析結果を確認しているのではないだろうか。
熱流体解析では“流体”を扱うので、当たり前だが知りたいのは「流れ」に関する情報だ。流体には水のような液体や空気のような気体など、さまざまなものがあるが、そうした流体の動き(流れ)を知るのが流体解析である。
それでは、流れの代表的なものとして、風について考えてみよう。風を表現するには、2つの情報が必要だ。1つ目が「風の向き」。2つ目が「風の速さ」だ。現実の空間では、“吹き流し”によってこれらを確認できる。空港などにある縞模様のあれだ。身近なところでは、鯉のぼりもそれに類するものといえる。
風の向きは、吹き流しの向きで分かる。そして、風の速さはどうはためいているかで把握できる。風の勢いが強ければ、気持ちの良いくらいなびいてくれる。
では、解析でどう表すのか。実は複数の表現方法があって、目的に応じて使い分けていくことになる。
ベクトル図については、構造解析でも使用すると述べたが、流速ベクトルも同様の表現方法といえる。ある地点の流れを知りたければ、その場所における方向を矢印で表現すれば方向が分かる。そして、大きさは、矢印の長さで表現できる。あるいは、コンター図よろしく速さによって矢印に色を付けるという方法もある。
スムーズに流体が流れているか。あるいは、どこかで渦を巻いているかなどは、ベクトル図を見ると把握できる。
ちなみに、この流速ベクトルを滑らかにつないだ表現がある。それが流線だ。流速ベクトルは、ある場所の流れを表現したものだ。当たり前だが、流れはぶつ切りになっているのではなく、つながっているものなので、流速ベクトルをつないでいくことで流れというものをより全体的に可視化できる。
流速ベクトルと流線は、ある瞬間の状況を表したものといえる。
ある瞬間の状況を表す流速ベクトルや流線に対して、経過を示すための方法もある。それが流脈線だ。例えば、「流れを元からたどっていきたい」といった場合の表現方法の一つとして使える。流脈線とは、どこかで発生した粒子をつないでできた線のことである。昨今では自宅で暖炉を持つお宅も増えてきたが、薪を燃やせば、煙が連続的に煙突から排出される。煙には粒子が含まれるわけだが、その煙の粒子の軌跡をつないでいけば流脈線になるというわけだ。
流跡線も流体中の粒子を扱って流れを示す方法だが、先ほどの流脈線とはまた少し異なる。流脈線では粒子をつないでいったが、流跡線はその名の通り粒子の「跡」を表現する。つまり、ある粒子の「履歴」みたいなものといえるかもしれない。実験でいえば、環境内に投入した一つの粒子の流れを追いかけて可視化するようなものだ。
この2つ(流脈線と流跡線)、一見するといずれも同じような結果になると思われるかもしれない。何も状況が変わらない定常状態ならばそうともいえる。しかし、多くの場合、物事は変化するものだ。例えば、煙突から出る煙ならどうか。
煙突を真上から見たとして、縦方向の動きは取りあえず無視する。観測開始0秒から1時間は西からの風が煙の粒子を東方向に流していたとする。ところが、1時間たった後から次の1時間は、風が南風に変わって粒子が北方向に流され始めたとする。これを流脈線と流跡線で表現してみると以下のようになる。
ある1つの粒子に注目して、その流れを継続的に追い掛ける「流跡線」とは異なり、次々に発生する粒子それぞれの流れを追い掛ける「流脈線」は、少し理解しづらい印象がある。そこで今回のケースにおける「流脈線」の補足を以下に掲載する。
ここまで示したのが流体解析でよく用いられる可視化の方法だが、他にもまだいろいろとある。その1つが例えば、オイルフローだ。流体解析のポスト処理では、空間の中のある断面をカットしたカット面で結果を可視化するのが一般的だが、例えば、オイルフローであれば、解析対象の表面上の流れを可視化できる。自動車や航空機といった乗り物の周囲の流れを見るには都合がよい。
熱流体解析で扱うのは流れだけではない。「熱」というくらいなので「温度」も結果として扱う。流れを解析する場合でも「圧力」を確認したいケースもある。また、流れでもその「大きさ」を知りたいという場合もある。これらの値には方向がない。こういう場合に使用するのがコンター図だ。温度分布などを知りたいときにはもちろんコンター図が活躍する。
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