かつて2次元大好き信者だった筆者が“CAEの重要性”に気が付いた経緯を踏まえつつ、話題の「設計者CAE」の基本的な考え方について解説する連載。第1回は、CAEの基礎として、その役割やメリットを紹介するとともに、設計者CAEを実践することで得られる効果について取り上げる。
近ごろ、さまざまなメディアで“設計プロセスにおけるCAEの必要性”をうたう記事を目にする機会が増えたように感じます。
実際の生活を振り返ってみても、自分自身がCAEの恩恵を受けていることや、筆者が講師を務める3次元設計ツールの講習会の中で、その活用をオススメしていることもあり、1日に何度も「CAE」という単語を口にすることも少なくありません。最近では「設計だけではなく、製造現場でもCAEをバンバン活用していきましょう!」と、いろいろな場所で発信していることもあり、今の筆者にとってCAEは非常に身近な存在といえます。
こうした活動をしていると、「CAEってそんなに大切なものなの?」という意見を耳にすることもありますが、そうした声もごもっとも……。その気持ち、よく分かります。何しろかつての筆者もこうした意見を発していた1人でした。いや、もっとストレートにいうと「CAEの機能なんて追加したらCADの値段が高くなってしまう! 自分のところにCAEがなくても困らないし、どうしても必要であれば解析屋さんにお金を払ってやってもらえばいいんでしょ!」程度に考えていました。
本当に、当時の筆者はCAEというツールに関心がなく、その重要性も必要性も感じていませんでした。その理由はどこにあるのか。それは他でもなく、「バリバリの2次元信者で、その思考から抜け出せていなかったから」です。
そんな筆者の凝り固まった思考を変えてくれたのが、オートデスクの3次元統合ソリューション「Fusion 360」です。本連載では、なぜこうした認識をあらためることができたのか、自らの経緯を交えながら話題の「設計者CAE」の基本的な考え方について解説していきたいと思います。
はじめに「CAEとは何か?」をあらためて説明しましょう。CAEという用語ですが、CADやCAMと同じく「Computer Aided(コンピュータによる支援)」ツールであり、その後に「Engineering」が続きます。これらの頭文字を取って、CAEとなるわけですが、直訳すると「コンピュータ支援によるエンジニアリング(工学)」です。
ただ、ここでの「エンジニアリング」という言葉の解釈ですが、製品開発や設計の段階で理論を実用に結び付けるために行う工学的な検討などを指します。これをもう少しかみくだくと、設計の実務におけるCAEとは、“設計したモノが要求性能を満たすかどうかを、実際に製作する前にコンピュータを使って調べること”だといえます。設計者にとって、CAEはモデリングや図面を描くツールなどと比べて、身近に感じづらいこともあり、「用語を見るだけで難しそう」と敬遠されがちです。しかし、「最低限、ココだけは押さえておけ!」といったポイントを理解できれば、きっと使ってみようという気になるはずです。余談ですが、CADは「キャド」、CAMは「キャム」と読むのに対して、なぜかCAEは「シーエーイー」とそのまま読まれます。
さて、本連載の主役であるCAEですが、大きく分けて「ハイエンドCAE」と「デザインCAE」に分類できます。ハイエンドCAEはいわゆる解析専門家向けで、解析の精度も価格も非常に高い上、設定や操作も難しく、使いこなすには相当な知識と経験が必要です。おまけに動作環境も、コンピュータリソースが潤沢でハイスペックなワークステーションなどを用意する必要があります。
もう一方のデザインCAEは、ハイエンドCAEのような高度な解析はできませんが、必要十分な機能で極力価格を抑え、設定や操作も比較的簡単に行えます。3D CADにアドインされているCAEはほぼデザインCAEに該当します。今回の連載でフォーカスするのはこのデザインCAEの部分であり、これが設計者CAEとされるものです。以降は、設計者CAEと表現を統一して解説を進めていきます。
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