解析、あるいはシミュレーションは、少なくともツールとしては、それほど特別なものではなくなってきた昨今である。特に設計者向けの構造解析については顕著である。しかし、流体解析についてはどうだろうか。
解析、あるいはシミュレーションは、少なくともツールとしては、それほど特別なものではなくなってきた昨今である。特に設計者向けの構造解析については顕著である。しかし、流体解析についてはどうだろうか。こちらは構造解析以上にハードルが高いといえるかもしれない。ハードルの1つは知識に関するものである。構造解析においても、解析が難しいと感じるのは構造解析の背景にある材料力学や連続体力学などである。流体解析を行う上で、流体力学のある程度の知識がやはり求められるが、流体というとらえどころのないものを扱うので、もっと引いてしまうかもしれない。
もう1つはツールに対するハードルである。一口に流体解析のソフトとは言っても、そのソフトの裏側にある理論はさまざまだ。構造解析ソフトであれば、イコール有限要素法といっても過言ではないと思う。しかし、流体解析ソフトのことを調べだした瞬間に、有限体積法だとか、非構造格子とか格子ボルツマンとか、粒子法とか聞き慣れぬさまざまな言葉が出てくる。さらに乱流方程式は、どのようにしているかなど、内部で流れをどう扱っているかはソフトごとに異なる。なじみがないと「何のことやら」という話だが、ソフトを使う上でそれが何なのかくらいは知っておきたい。
あと、現実的な話として価格もある。流体解析ソフトは今のところ非常に高価だ。そこが、Fusion 360のような低価格なソフトが登場している構造解析とは異なる。さらに、マシンへの投資も重要だ。メモリが16Gとか、CPUが1つだけとかだと実用的な解析は結構つらい。それでメモリは128Gとか、CPUもマルチCPU、マルチコアで並列処理ができないと、現実に即した解析が、現実的な時間内で処理できるかどうかが難しいのが現実など、ハードウェアにかかる負荷も大きくなりがちだ。
とはいえ、この分野でも例えば「SOLIDWORKS Flow Simulation」とか、やはり設計の中で使用できるソフトが普及しはじめているのも確かだろう。
そういうわけで、本シリーズでは、流体解析を専業とはせずに、設計業務の中で流体解析を考えている皆さんに少しでも役に立つ情報をご提供できればと思う。
今回は、まずプロローグというかオリエンテーションであるが、次回以降は、理論と実践を交互に連載をしていきたい。理論編については、できるだけ「大学の講義」にならないように流体解析に必要な最小限の情報をお伝えしていく
一般的な構造解析ソフトは単純な静的応力解析にとどまらず、振動、熱伝導、熱応力など、さまざまな構造物の物理現象を解析する機能がある。同様に、流体解析ソフトが適用できるシーンもいろいろだ。
流体解析ソフトなので当たり前だが、気体などの流れを解析できる。大きなものだと都会のビル群の間を流れる風の解析だが、製造業的に考えると、例えば、自動車や航空機の周囲の空気の流れの解析などだ。周囲の空気の流れは、自動車や航空機などのパフォーマンスにも大きな影響があるため重要だ。個別の部品で言えば、ファンの設計などにもかかわる。
ちなみに、解析ソフトで扱うことのできる流体はさまざまだ。だから、例えば海上を高速で疾走するレース用のヨットの性能も、船と海水と空気を同時に扱ってそのパフォーマンスをシミュレーションすることも可能だ。
多くの流体解析ソフトは、「熱流体解析ソフト」と呼ばれるように、流体の流れだけではなくて、「流れ」と「熱」を同時に解くことができる。製造業的にも重要なポイントだ。基本的に、機械などの動力源は発熱する。動かないものでも、例えばコンピュータのCPUなども火傷するほど発熱する。そこで大事なのが、いかに効率よく放熱するかということだ。で、ここに解析ソフトが使える。例えば、CPUの上のヒートシンクから熱を逃がそうとする時に、構造解析ソフトの熱伝導の機能であれば、物体の表面に熱伝達係数を定義する。静止した空気とか強制対流する空気に対応した数値を定義するが、言ってみればものすごくアバウトというか乱暴な想定だ。より現実に即したシミュレーションをしようと思えば、熱流体解析との連成が必要になってくる。いずれにしても、この手のシミュレーションも機械の性能に大きく寄与する可能性がある。
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