水素を使用したチタン再生技術スポンジチタン廃材の再生技術(3)(3/3 ページ)

» 2025年09月24日 07時00分 公開
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高強度と高延性を兼ね備えた廃材由来のチタン素材を再生可能と判明

 このようにTi64切削くずはH2ガスとの反応により合成された脆いTiH2成分を含むことで粉砕加工性が著しく改善した。次に60分間の粉砕加工処理を施した各試料について、レーザ回折式粒度分布測定器を用いて測定した粒度分布とメジアン径を図6に示す。

図6 水素化熱処理温度と粉砕加工粉末の粒径測定結果(粒径分布とメディアン径)の関係 図6 水素化熱処理温度と粉砕加工粉末の粒径測定結果(粒径分布とメディアン径)の関係[クリックで拡大]

 なお、粒度分布の測定に際して、原料のらせん状切削くずを含む未熱処理品と400℃熱処理品では、測定前にそれらを除去した上で粉末粒子状になった粉砕試料を対象に粒度分布を計測した。

 熱処理を施していない原料切削くずと400℃での熱処理試料において、両者は等しい粒度分布を示した。また、メジアン径はともに460μm程度であり、図5に示した外観写真において目視で確認できる粗粒粉末が大半であることとも一致している。故に、水素含有量が63〜66ppmとほぼ等しい両試料では、わずかに粉砕効率が異なるものの、粉砕加工挙動は極めて類似している。

 一方、水素熱処理温度を600℃と800℃に設定した場合、粒度分布は微細粒側に移行するが、メジアン径を比較すると前者が119.1μm、後者が189.2μmとなった。走査型電子顕微鏡により粉砕試料を観察した結果、800℃熱処理試料では、より微細に粉砕された粒子径1〜5μm程度の粉末同士の結合/固着による造粒化が進行し、粗大な2次粒子が形成されていた。

 そのため、例えば、粒子径300μmを超える頻度を比較すると、600℃熱処理試料では6.1%であるのに対して800℃熱処理では19.4%と増加し、その結果、メジアン径が189.2μmと大きな値を示した。

 次に、得られた粉砕加工粉末に含まれる残留水素成分を除去すべく、先のTG-DTA結果に基づき、真空雰囲気中で温度600℃、保持時間30分の脱水素化(TiH2分解)熱処理を施した。その結果、水素含有量は出発原料であるTi64切削くずと同等の値(0.007wt.%)にまで減少し、TiH2相として含まれる水素成分は完全に除去できた。

 この測定値はJISで規定されているTi64合金に相当するJIS-60における水素成分範囲(<0.015%)を満足する。酸素の含有量は0.06%、窒素は0.04%、炭素は0.04%であり、いずれもJIS60に規定される各成分範囲を満たした。このように本研究が提案する水素化熱処理−機械粉砕加工−脱水素化熱処理(TiH2分解)の組み合わせによりTi64切削くずから粉末冶金用原料粉末を再生できることを実証した。

 上記の成果に基づき、塊状のスポンジチタン廃材に対して水素化熱処理(温度:650℃、保持時間:2時間、H2ガス流量:5L/分)を施したところ、水素含有量は約3wt.%に増大し、XRD解析においてTiH2相の生成を確認した(図7)。

図7 水素化熱処理前後のスポンジ廃材のX線回折結果 図7 水素化熱処理前後のスポンジ廃材のX線回折結果[クリックで拡大]

 この熱処理試料に対して、スタンプミルによる1次粉砕(3分間)、続いてボールミルによる2次粉砕(1時間)を行った。先のTi64切削くずの粉砕加工試料と同様、得られた粉砕Ti粉末は角張った異形状を有しており、脆いTiH2化合物に起因した破砕微細化挙動が進行したと考えられる。メジアン径は20.4μmとなり、粉末冶金用粉末として求められる粒径範囲(15〜120μm)を満足した。

 また、粉砕加工後のTi粉末の回収率は99.2〜99.6%と十分に高い。なお、不純物元素を定量分析した結果、粉砕粉末に含まれる酸素量0.372%、窒素量0.089%、水素量3.04%、鉄量1.03%であった。酸素および窒素の含有量は、出発原料であるスポンジ廃材に比べて増大した。これは大気中で粉砕加工する際、粉末表面での酸化や窒化反応が進行したことに起因する。

 なお、第1回で紹介したように酸素と窒素は、チタンの固溶強化元素として有効に作用する。このようにして得られた粉砕Ti粉末を用いて、真空加圧焼結および熱間圧延加工を経て板状素材(図8)を試作し、常温での引張特性を調査した。

図8 スポンジ廃材から再生したチタン焼結圧延材の外観と引張特性 図8 スポンジ廃材から再生したチタン焼結圧延材の外観と引張特性[クリックで拡大]

 不純物量に関して、水素量は0.004%(JIS規格<0.013%)に減少しており、その他の元素の含有量は、粉砕粉末と顕著な差異は見られなかった。力学特性に際して、酸素含有量が同等のJIS-4種純Ti材(0.4%O)の引張特性と比較すると、廃材由来のチタン圧延材の方が全ての力学特性が優れており、不純物である鉄と酸素および窒素の固溶強化に起因する結果といえる。

 以上よりスポンジチタンの製造工程で発生する不可避的不純物(鉄や酸素)を含む塊状廃材に対して、水素を利用した高効率な粉砕加工法を適用することで粉末冶金用チタン粉末が得られること、またそれを焼結固化することで高強度と高延性を兼ね備えた廃材由来のチタン素材を再生できることを明らかにした。

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筆者紹介

大阪大学 副学長(経営企画担当) 接合科学研究所 複合化機構学分野 教授 近藤勝義(こんどうかつよし)

大阪大学接合科学研究所にて、チタンやアルミニウムなど軽金属を対象に、原子スケールからマイクロレベルでの組織構造制御を通じて、従来は相反関係にあった強度と延性の高次元での両立を可能とする合金/プロセス設計原理や、不純物成分を利用した廃材の高度試験循環プロセスなどの構築を進めている。他方、もみ殻などの農業廃棄物からの高性能素材とエネルギーの同時抽出技術に係る実用化研究にも取り組んでいる。粉体粉末冶金協会副会長や国内外の多数の学術論文誌の編集員を歴任。


参考文献:

[1]岡部徹:電気と技術の塊:金属チタンの製造法,電気学会誌,Vol. 126, No. 12, p. 801-805 (2006).

[2]K. Wang, X. Kong, J. Du, C. Li, Z. Li, Z. Wu: Thermodynamic description of the Ti-H system, Calphad, Vol. 34, No. 3, p. 317-323 (2010)

[3]I. Barin: Thermochemical Data of Pure Substances, VCH Verlagsgesellschaft mbH, 1989.

[4]V. Bhosle, E.G. Baburaj, M. Miranova, K. Salama: Dehydrogenation of TiH2, Materials Science and Engineering A, Vol. 356, No. 1, p. 190-199 (2003).

[5]H. Liu, P. He, J.C. Feng, J. Cao: Kinetic study on nonisothermal dehydrogenation of TiH2 powders, International Journal of Hydrogen Energy, Vol. 34, No. 7, p. 3018-3025 (2009).

[6]梅田純子,三本嵩哲,今井久志,近藤勝義:水素熱処理を利用したチタン切削屑の粉体化プロセス,粉体および粉末冶金, Vol. 63, No. 12, p. 1002-1008 (2016).


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