本製法の有効性を確認すべく、まず、切削加工で発生する切くずを対象にTiH2化合物の生成による粉砕加工性の改善効果を実験的に検証した[参考文献6]。ここでは、用Ti64合金の機械加工工程で発生する切削くず(図2)を出発原料として用いた。
横型管状炉内にH2ガスとアルゴン(Ar)ガスの混合ガス(流量比H2:Ar=2:1)を流入した状態でTi64切削くず試料を充填し、400℃、600℃、800℃の各温度で30分間保持する熱処理を施した。まず、各試料の水素含有量の定量分析とX線回折(XRD)による水素化合物相の同定を行った。それぞれの解析結果を図3と図4に示す。
比較として市販のTiH2粉末についても同様の分析を実施した。出発原料であるTi64切削くず(熱処理前)に含まれる水素量66ppmに対して、400℃熱処理サンプル中の水素量は63ppmとなり、両者での顕著な差異はない。
つまり、この温度ではTiとH2ガスの反応は生じていないと考えられ、これは図1のTG-DTA結果と一致する。熱処理温度を600℃および800℃に設定した試料では、水素量は0.65〜0.68wt.%に達しており、出発原料に対して約100倍に増大した。先のTG-DTA曲線でのTiH2粉末の脱水素化(分解)反応を踏まえると、600℃以上の温度域においてH2ガス雰囲気で熱処理を施すことでTi64切削くずとの反応により水素量が顕著に増加したといえる。
また、XRD結果において600℃と800℃での熱処理サンプルでは、原料の切削くずには検出されないTiH2相に対応する回折ピークが明瞭に確認される。しかしながら、400℃熱処理材では、TiH2相の回折ピークは検出されなかった。これらの分析結果を踏まえると、600℃以上の水素熱処理によりTi64切削くずにおけるTi成分がH2ガスと反応し、所望の水素化合物(TiH2)が生成したと結論付けられる。
次に、水素化熱処理により生成する脆いTiH2化合物がTi64切削くずの粉砕加工性に及ぼす影響を検討した。上記の各切削くずを対象に、遊星型ボールミル装置を用いて粉砕加工時間と試料の平均粒子径の関係を調査した。
ここでは、回転速度を200rpm、加工時間を10、30、60分の3水準とし、粉砕効率を高めるために直径10mmのジルコニア(ZrO2)ボールを原料とともにミル容器に投入した。まず、容器内における切削くずの粉砕状況を目視にて観察した(図5)。TiH2相を含まない出発原料と400℃熱処理サンプルでは、10分経過後においても旋状の連続した切削くずが多量に残存している。
これに対してTiH2相を含む600℃と800℃の熱処理試料では、らせん状原料は確認されず、全て粉末状態に破砕された。そこで、このような粉砕状態の差異を定量的に評価すべく、投入した切削くずの重量かららせん状の切削くず(未粉砕試料)の重量を引いた値を最初の投入重量で除することで粉砕効率(%)を算出した。
その結果、熱処理を施さない原料切削くずでは58%、400℃熱処理試料では72%であったが、600℃および800℃の熱処理試料の回収率はともに100%を示した。
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