もう1つの成果は「多様なデータ形式への拡張」である。スパースモデリングによる分析の精度を高めるためには、データだけでなくそのデータ形式を付加情報として活用することも重要だ。例えば、工場のセンサーデータや天候データなどのバイレベル構造形式、遺伝子発現データなどのグループ構造形式、通信網の通信データなどのグラフ構造形式、時空間データやECサイトの商品データの商品分類などの木(階層)構造形式がある。データとともにこれらの構造形式も情報として分析に活用することで分析精度の向上を期待できるという。
高速化の効果としては、マーケティングやエネルギーなどのデータ形式がない場合で最大73倍、バイレベル構造形式で同35倍、グループ構造形式で同68倍、グラフ構造形式で同3倍、木構造形式で最大2倍となっている。また、これらの成果はAI/機械学習分野の国際会議である「NeurIPS」や「ICML」などで論文採択されており、バイレベル構造形式とグループ構造形式での研究成果は論文採択の後にNTTドコモビジネスのノーコードAI開発ツール「Node-AI」に搭載されており利用可能な状態になっている。今後も、Node-AIへの高速スパースモデリング技術の搭載を拡大していく方針である。
高速スパースモデリング技術の応用例としては、製造分野におけるプラントの生産効率最適化が挙げられる。プラントに設置されたセンサーから得られる時系列データを用いることで、生産量に影響した時刻を時系列データの中から特定できれば、その時刻でどのような操作が行われていたかなどの状況を調べる糸口となり、より生産効率を高める制御操作の検討や策定を期待できる。このとき、センサーが1秒ごとにデータを取得していた場合、1日で約1万時刻分のデータを取得できるものの、取得期間が長くなるほどデータ量は増加して分析に時間がかかってしまい、数万〜数億時刻となると一般的なコンピュータで1カ月以上の分析時間を要する場合もある。しかし、高速スパースモデリング技術を使えば、分析時間を1日以下に短縮できる可能性があるという。
その他にも、医療分野で特定の病気の遺伝的要因の推定を行い新薬や治療法を開発する、マーケティング分野で顧客の購買行動から特徴的な行動を推定し広告やクーポンの配信を最適化する、エネルギー分野で核融合炉のセンサーデータからプラズマの挙動を表す方程式を推定し核融合炉の安定稼働のための制御操作を策定するなどの応用例が考えられるとしている。
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