この計測の結果、陽イオンRuの電子軌道由来の部分状態密度がフェルミエネルギーを横切っており金属的(電気伝導への寄与が大きい)であるのに対して、酸素の電子軌道由来の部分状態密度はフェルミエネルギーでほぼゼロであり絶縁体に近い状態であることを発見した。
小林氏は「これまでSrRuO3ではRuと酸素の電子軌道は強く混成し、電子軌道に依存せず同一の形状になると考えられていた。今回の結果は通説と大きく異なる結果だ」と述べた。
さらに、この現象の原因を探るため、酸素原子の電子軌道における電子間の電子相関の大きさを実験的に見積もったところ、酸素の電子相関がこれまでの研究で予測されていたRuの電子相関の大きさに比べて数倍大きいことが判明した。この酸素の大きな電子相関が、酸素の電子軌道由来の電子状態を絶縁体に近い状態とし、電気伝導にほとんど寄与させない原因であると考えられる。
小林氏は「同研究の成果は、世界で初めて機能性酸化物において『陽イオンと酸素で異なった状態密度』の観測に成功した点と、酸素の電子相関が物質の特性に重要な影響を与えることを示した点だ。この発見は、他の機能性酸化物にも広く適用できる新概念であり、今後の研究に大きな影響を与えると考えられる」と強調した。
両者の役割に関して、東京大学はNTTと共同で実験計画を策定し、SPring-8における放射光を用いた光電子分光測定およびデータ解析を実施した。NTTは酸化物ML-MBEによる高品質なSrRuO3薄膜の作製およびその物性評価を行った。
今後は、酸素の電子相関を取り入れた新たな理論的枠組みを構築し、物質設計の精度向上を目指す。これにより、理論計算や大規模シミュレーションに基づく機能性酸化物の機能設計/予測が可能となり、新原理に基づく磁気メモリや量子デバイスの開発へとつながることが期待される。
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