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三菱電機とソニーの事例に学ぶ 品質不正防止につながる組織風土改革品質不正を防ぐ組織風土改革(6)(2/3 ページ)

» 2025年05月16日 09時00分 公開

ソニーグループの組織風土改革

 ソニーグループは、全世界で11万人以上の従業員を擁し、製造業にとどまらず多岐にわたる事業を展開するグローバル企業です。これほど大規模かつ多角的な事業を手掛けるコングロマリット企業では、存在意義や判断基準、望ましい行動に対する認識にバラつきが生じるのは当然のことといえます。

 だからこそ、同社では多様な従業員が共通認識を持ち、同じ方向を目指せるよう、パーパスの浸透に力を入れています。この方針は、ソニーグループほどの規模でなくとも、事業の拡大や多角化を進める企業にとって大いに参考になるでしょう。

 同社は2018年4月にCEO(最高経営責任者)に就任した吉田憲一郎氏(現在は、取締役 代表執行役 会長)のリーダーシップの下、「Sony’s Purpose&Values(存在意義と価値観)」を策定しました。以下は、同社がこのPurpose&Valuesの浸透に向けて実施している取り組みの一部です。

  • Purpose策定プロセスへの従業員の参画
  • キービジュアルのポスターの配布
  • イメージを伝えるビデオの配信
  • CEOの署名入りレターの配信
  • 各事業拠点におけるタウンホールミーティングの実施
  • 各事業のマネジメント層による、自組織の事業戦略とPurposeのひも付け
  • Purpose実践に関する従業員インタビュー「My Purpose」をイントラネットに掲載

 同社は年に1回、パーパスの浸透度調査を実施しており、その結果からも浸透が着実に進んでいることが分かっています。現在では、「Purpose&Values」が全従業員の行動のよりどころとなっています。

 連載第3回でもお伝えしたように、経営陣や従業員が存在意義や価値観といったアイデンティティーを持たない組織では、不正が発生するリスクが高まります。同社では、経営陣と従業員が「Purpose&Values」にのっとって行動することにより、「故意」や「過失」によるリスクが低減し、「安心」や「幸運」といった望ましい状態が増えていると推察されます。つまり、パーパスの浸透によって、不正防止の効果も生まれると考えることができるのです。

コンプライアンスに関する従業員/組織の状態 図3 コンプライアンスに関する従業員/組織の状態[クリックで拡大]

不祥事防止に注力するあまり、「守り」の風土になってはいけない

 企業が不祥事を防止するには、組織風土の改革が不可欠です。しかし、不祥事防止の意識が過度に強まると、組織風土が「守り」に傾き、「攻め」の機運が失われてしまうことがあります。実際、過去に不祥事を経験した企業からは、「再発防止に向けて組織風土改革を推進したものの、挑戦やイノベーションが生まれにくい組織になってしまった」という声も聞かれます。

 前回お伝えした通り、理念を浸透させるには、判断基準や望ましい行動について「(1)すり合わせ→(2)実践→(3)承認」のサイクルを回し続けることが重要です。組織風土が「守り」に傾くのを防ぐには、むしろ「攻め」の風土を醸成できるよう、このサイクルを意識的に回す必要があります。

 現場レベルで判断基準や望ましい行動についてすり合わせ、良い挑戦が生まれた際には積極的に承認し、その実践をより多くの従業員へと広げていく――。こうしたサイクルを確立できれば、不祥事防止と挑戦の両立を図れる組織づくりが可能になるはずです。

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