三菱電機とソニーの事例に学ぶ 品質不正防止につながる組織風土改革品質不正を防ぐ組織風土改革(6)(3/3 ページ)

» 2025年05月16日 09時00分 公開
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一人一人が組織の「変化」になる

 筆者はこれまで、数多くの企業を支援してきましたが、「組織風土を変えたい」と掲げる企業のうち約7割は、「何のために変えたいのか」といった目的や理想像が不明確で、誰も本気でコミットしていないのが実情です。このような状態では、組織風土が変わることはありません。組織風土改革とは、単なるキャンペーンではなく、企業が今後も生き残っていくために、全員が当事者意識を持って取り組むべきものなのです。

 ガンジーは、「世の中に変化を望むなら、あなた自身がその変化そのものになってみせなさい」という言葉を残しています。「こんな風土の会社になってほしい」という理想があるのなら、「誰か」が変えてくれるのを待つのではなく、自らが率先してその姿を体現することが大切です。

 現場の皆さんは、どんなに小さなアクションでも構わないので、まずは自分自身の行動を一つ変えてみてください。その行動に共感する仲間が一人、また一人と増えていけば、やがて組織全体が大きく変わり始めるはずです。

 実際に、ある企業で次のような事例がありました。社員20人の会社で、社長が「うちの社員はあいさつすらしない」と嘆いていたのです。そこで、当社のコンサルタントが「社長ご自身が、これから1週間、大きな声であいさつしてみてください」とアドバイスしました。すると、次のような変化が起きました。

  • 月曜日:社長は「おはよう!」とあいさつしましたが、誰一人応じませんでした
  • 火曜日:2人の社員が小さな声であいさつを返しました
  • 水曜日:あいさつを返す社員が6人に増え、声も大きくなりました
  • 木曜日:さらに11人に達し、あいさつをしない社員が少数派になりました
  • 金曜日:20人全員があいさつを交わすようになりました

 このように、組織には「臨界点」が存在します。臨界点とは、新しい取り組みが一定の割合の人に受け入れられることで、そこから加速度的に組織全体へと広がっていく「境目」のことを指します。この臨界点を越えると、あとはドミノ倒しのように、組織は一気に変化していきます。

 たとえ最初は小さなアクションでも、臨界点を越えれば、それはやがて大きな波となって広がります。あいさつの事例では、最初にアクションを起こしたのは社長でしたが、そのきっかけを作るのは、社長でなくても、誰にでも可能です。いきなり全員を動かすことを考えるのではなく、まずはあなた自身が一歩踏み出して動いてみましょう。

本連載の最後に

 本連載では、品質不正を「個人の問題」ではなく、「組織の問題」として捉えてきました。一方で、素晴らしい組織風土をつくるのは、一人一人の行動の積み重ねでもあります。本連載が、「こんな組織になってほしい」と願う皆さまにとって、小さな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。 (連載完)

⇒連載「品質不正を防ぐ組織風土改革」の記事はこちら

リンクソシュール
取締役
松田佳子

2009年、新卒でリンクアンドモチベーション入社。採用や育成、組織風土のコンサルティングに従事した後、従業員エンゲージメント向上サービス「モチベーションクラウド」の立ち上げに参画。以降は組織風土改革に特化した事業部の責任者を務める。2024年、リンクイベントプロデュース 代表取締役社長に就任。2025年、リンクコーポレイトコミュニケーションズとの経営統合により現職。戦略設計から社内コミュニケーション施策の企画/制作まで、総合的なサービスを展開。顧客の組織風土変革やビジョン実現を支援している。

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