これまで製造現場のコンプライアンス違反といえば、品質にかかわる不正や不祥事がメインでした。しかし近年、ESG経営やSDGsの広まりから、品質以外の分野でも高度なコンプライアンス要求が生じています。本連載ではコンプライアンスの高度化/複雑化を踏まえ、製造現場が順守すべきコンプライアンスの外延を展望します。
本連載ではこれまでに、製造業におけるコンプライアンス違反による不正/不祥事への「予防」「発見」「対応」の視点で、リスクアセスメントの重要性や再発防止策、セキュリティリスク、生産準備プロセスの高度化などについて解説してきました。本稿では、不正対策をきっかけとしたデータ活用基盤構築のアプローチについて解説します。
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前回の「不正の温床となる過剰要求をデジタル化で防ぎ、リードタイムを短縮する方法」でも示した通り、製品の複雑性の高まりや短納期の影響により、製造業のモノづくりの現場は高いプレッシャーにさいなまれています。製造業における不正事例の多くは、現場へのプレッシャーが高く、人手が介在することが多い検査工程で起きています。特に官能検査や検査成績表作成の工程などは、人が仲介することでフレキシブルな対応ができる一方で、不正の温床になりやすいといえます。
例えば、ライン生産では組み立て作業でトラブルが発生した際、ラインが止まるという明確な変化があるのに対し、品質検査では担当者に時間的プレッシャーがかかる状況が生じても、外部からは明確な変化として捉えにくいのです。時間的プレッシャーがかかる中、検査担当者は自身で何とか遅れを吸収しようと懸命に励みます。その結果、最初はなんとかリカバリーできたとしても次第に無理が生じ、やむを得ず検査の改ざんが行われてしまうのです。
こういった環境や組織の外的要因に対して、担当者本人に注意を促しても根本的な対策とはなりません。不正が起きないような仕組みづくりと、意識付けの両面を足並み合わせて進めていく必要があります。
このように起きてしまう品質不正に対し、どのような対策が打てるでしょうか。不正が起き得る傾向を「動機」「正当化」「機会」の3つの観点で示した不正のトライアングル(図1)で見てみます。
製造部門や営業部門などからの圧力など、不正を行う「動機/プレッシャー」に対しては、品質保証機能を製造部門から独立させることでプレッシャーから解放する手法が考えられます。不正を行うことを「正当化」できる状況に対しては、全社的なコンプライアンス意識の徹底を促す定期的なコンプライアンス研修の実施など、組織的な対策が必要になります。
一方、不正を行うことができる「機会」の存在に対しては、システム改修などの仕組みを見直すことによって、クイックに対策可能です。検査設備などから検査データを自動転送するというのが最も多く講じられる対策ですが、検査記録について正規分布からの外れ値を分析する手法や、なりすましなどを防ぐAI(人工知能)を活用した手法も有効です。
自動転送プログラムについては、IoT(モノのインターネット)を活用して導入することになりますが、工場の設備は旧型のものも多く、新旧の設備に耐え得る柔軟なインタフェース仕様に対応でき、集約したデータを分析可能なツールが必要となります。
このような仕組みの整備は、不正を起こさない対策として早期に対応できるという点では非常に有効です。しかし、現場の作業員からすると「会社から信用されていない」といった不信感を募らせる原因となり、モチベーションダウンに至る、または“出口”がふさがれてしまった、という新たなプレッシャーの発生につながる可能性があります。
ですので、仕組みを整備するのは短期的に成果を出すための一時凌ぎの対策ではなく、品質データを集約、分析することで、全社の品質向上につながるような段階的なデータ基盤構築を目指すという中長期的なプランニングと合わせて、現場に丁寧に説明することが重要です。
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