図2はデータ活用の環境づくりに向けたアプローチをIT部門と事業部門双方で示したものです。
ここから分かる通り、データ基盤の構築はただ事業部門側に環境を用意すればよいというわけではありません。トップの指示によって、IT部門が必要に迫られてデータ基盤を構築したのに、事業部門が全く使用せず、コストの無駄遣いになった、というケースもよく聞きます。
これはデータを使う側(事業部門)のデータ活用に対する理解度やスキルが、データ基盤環境が提供するサービス内容と見合っていなかったことが原因です。データ基盤だけでなく、どうデータを使ってもらうか、社内をどのように啓蒙(けいもう)して進めるかをセットで考える必要があります。
このことは経済産業省、情報処理推進機構(IPA)から発行されている「DX推進指標」でも触れられています。デジタル改革を推進するには、経営者、IT部門、事業部門それぞれが同時に見直しを進める必要があるのです。自社のデータ基盤の成熟度を測る際には、こういった公開された指標を用いて自己診断を行うところから始めるのもよいでしょう。
今後、製造業ではサプライチェーン安定化のため、組織や企業内にとどまらず、広く企業を横断してデータを用いることも多くなります。インダストリー4.0を提唱したドイツをはじめ欧州では、品質や製造のデータは企業内の部署横断のみならず、企業や業界間で共有する、といった大規模なデジタルエコシステムを次期インダストリー4.0の姿として構想し、推し進めています。
欧州との取引がある、もしくは予定している企業は、このエコシステムへの参加を求められることも視野に入れておいたほうが良いでしょう。そのときに、自社のデータ基盤が整備されていないと、求められたデータをすぐ提供できず、ビジネスが停滞する恐れが出てきます。データを中央集約し、エンジニアリングチェーン、サプライチェーン上のデータを求められる粒度で素早く準備、提供できる体制をつくることが不可欠です。
その中に品質不正の影響を受けたデータなどが含まれていれば、一企業だけではなく他社を巻き込むことになりかねません。データ基盤を構築するだけでなく、データ品質にも気を配って整備していく必要があるでしょう。
このように品質不正防止/予防という一見守りの方策においても、中長期的な視点を持つことにより、投資が不可欠な施策をきっかけにデータ利活用基盤を充実させ、攻めの製造データの利活用につなげるといったことができます。このようなアプローチにより、事業部門、IT部門、経営層が三位一体となったデータドリブンな組織が形成できるようになるのです。
次回は、製造現場における事業継続計画(BCP)の検討ポイントや、危機が発生した場合の組織が復旧する力(=組織レジリエンス)について解説します。
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