産業とセーフティにおけるロボティクスの未来とはロボティクスの未来(1/3 ページ)

本稿では、QNXカントリーセールスディレクター日本のアガルワル・サッチン氏による、産業界におけるロボティクスの安全性とソフトウェアに関する寄稿をお届けする。

» 2025年05月08日 10時00分 公開

 ロボティクスの世界では、アプリケーションの進歩、安全基準の厳格化、人間と機械の間での協力の強化によって、未来のものと思われた技術革新が構想から現実のものへと変わりつつあります。

 この数年で、特にAI(人工知能)技術の発展、普及とともにフィジカルAIが注目を集めており、年初に米国ラスベガスで開催された「CES 2025」でも多様なロボティクス技術やソフトウェア、製品に熱い視線が注がれました。

 コンシューマー向けの多彩な製品が華やかに登場しているロボティクスの分野ですが、農業から医療まで、産業界は既に人間と機械のコラボレーションがもたらす強力な可能性の活用を始めています。

 それと同時に求められるより高い安全基準が、ロボティクスおよび産業界にもたらす転換点も浮き彫りとなってきました。

過酷な環境下で危険かつ反復的な作業を担うロボット

 「キツい、汚い、危険」な作業は、長年、特に過酷な環境下で人間の労働者の負担となってきました。ロボティクスにおけるイノベーションの最前線では、そうした作業のより多くをロボットが担っていくための開発が行われています。

 石油、ガス産業を例に挙げましょう。

 現在は人間の潜水士が、危険な条件下で水中パイプラインの漏れを発見、修理しています。しかしこれに代わり、自律型の水中機器が作業を担っていく可能性があります。

 深い水中で行われる作業は、人間にとって大きな労力を要し、かつ非常に高いリスクを伴います。高解像度カメラとセンサーを搭載したAI駆動のロボットが人間に代わって作業できれば、安全性を向上させるだけでなく、危険な環境下でこれまで以上の効率性と正確性を実現できるでしょう。

 廃棄物管理では、下水処理場でのごみの分別や有害残留物の除去を行うピック&プレースロボットがすでに活躍しています。ロボットは、こうした処理現場でガラスや金属などの材料を効率的に処理してリサイクルプロセスを効率化し、廃棄物を削減して持続可能性を高めることにも長けています。

 また、アラスカやスカンジナビアなど、極寒の厳しい気候における送電線の除氷用ドローン技術も、ロボティクスの画期的な応用例です。ドローンを活用することによって、人間がヘリコプターを操作して作業する危険を冒す必要なく、蓄積した氷を除去できます。

 同様のイノベーションは、高層ビルの清掃やメンテナンスにも応用できます。ロボティクスは、危険な環境下で人間の安全と作業の効率性を確保するために、今後ますます不可欠なものとなっていくでしょう。

過酷な環境での作業はロボットによる代替が進んでいる 過酷な環境での作業はロボットによる代替が進んでいる(画像はイメージです)

自律型搬送ロボットが物流と医療における変革を支援

 自動車産業から最先端技術が移転した結果、自律型搬送ロボット(AMR)は非常に有望な技術として、広範な影響が見込まれています。

 複数のセンサーから得られるデータを統合するセンサーフュージョン(データ統合技術)によって精密なナビゲーションが実現し、AMR、そしてその作業の舞台となる大規模な倉庫などの両方にとって、不可欠な機能を提供します。

 現在、AMRによって倉庫内における荷物の仕分けや輸送、障害物の回避、配送ルートの最適化が、かつてない高い効率で実現しています。

 こうした技術は医療現場でも革新的な変化をもたらしています。

 AMRは、病院など施設内の廊下で、車椅子に乗った患者やスタッフなど進路上の障害となる存在を巧みに避けながら、食事や薬剤、さまざまな供給品を配達するだけでなく、自身のメンテナンスのタイミングも把握できます。

 既に一部の病院ではこうしたシステムを導入しており、スタッフの業務負担の軽減に成功しています。その結果、より多くの時間が患者へのケアに振り向けられるようになりました。

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