産業とセーフティにおけるロボティクスの未来とはロボティクスの未来(3/3 ページ)

» 2025年05月08日 10時00分 公開
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安全性設計とソフトウェア基盤の重要性

 安全性が設計上の必須事項となったため、開発基盤として信頼性の高いソフトウェアを選択することの重要性が増しているのは明らかです。筆者が所属するQNXオペレーティングシステムを例に取ると、ISO 10218およびISO 13482の両方に準拠し、次の主要領域を焦点としています。

  • 機能安全性:IEC 61508 SIL 3への準拠を含む厳格な安全要件を満たす設計により、ソフトウェアが安全性に関わる重要なタスクを確実に処理できることを保証
  • フォールトトレラントなマイクロカーネル:マイクロカーネルアーキテクチャによって、システムの安定性と安全性を維持するために重要な、システムに障害が発生してもその障害がシステム全体に深刻な影響を与えずに正常に運用を続けられる能力を提供。これは、ISO 10218の改訂およびISO 13482で強調されている人間とロボットの協働と相互作用において特に重要な要素
  • リアルタイムパフォーマンス:ジッタとレイテンシを最小限に抑えるリアルタイムの応答性を提供。これは、正確で精密なロボット操作と、人間とロボットの間での不調和を回避するために不可欠
  • 開発者に優しいツール:安全機能の開発と統合を簡素化するツールとフレームワークのスイートを提供し、開発者がシステムに必要な安全基準を確保できるよう支援

 ソフトウェアベンダーが上記の要件に対応することで、メーカーはISO 10218とISO 13482の両方の基準に準拠した、安全で信頼性が高く高性能なロボットシステムを構築できます。

安全性と産業の未来

 安全性は、単なる技術的な必要性ではなく、安全な労働環境の基盤として、人間とロボットが共存し生産的に協力するために不可欠なものとなっています。堅牢な安全プロトコルは、作業者の保護、事故防止、円滑な運用の確保のため重要です。さらに、それによって自動化に対する信頼構築と、産業における革新や新しい技術の採用が可能になります。

 反対に、安全性が欠如した場合、人間とロボットの協働に関連するリスクによって進歩に遅れが生じ、協働ロボットの可能性が制限されるケースも考えられます。

 現代において、安全性は単に保護のためだけのものではなく、人間の安全を最優先にしながら自動化の新たな可能性を探り、それらを安全に実現することを可能にする革新の推進力にほかなりません。

人と機械の共生のために

 人間と機械が完璧な調和の中で協力する未来は、農業や製造業などの現場でも展開していくでしょう。農業では、最先端のセンサーを搭載したドローンが自ら雑草を特定し除去できるようになり、農業に従事する人々は負担がより軽い作業を行いつつ、必要な時だけ機械が行う作業に介入することができます。

 既に、自律システムを使用して驚くべき精度で種をまき肥料を施すという、最先端の試験が進行しています。これにより、農業従事者の貴重な時間の節約と、使用する肥料の削減、土壌の保護の実現とともに、作物の収穫量の増加を両立させることができます。

 製造業では、高度な画像認識を備えたロボットアームが、これまでよりも迅速に不良品を発見、除去できるようになります。それによって人間の労働者は、プロセスの最適化や戦略的な意思決定に集中できます。

ロボットを活用することで人間がより高付加価値の作業に専念できる ロボットを活用することで人間がより高付加価値の作業に専念できる(クリックで拡大)

 このように、人間の創意工夫と機械の効率性が理想的なバランスで実現することで、産業全体でイノベーションと効率性の向上を推進できます。

 これらの技術は現在の産業や労働環境が抱えるさまざまな問題を解決するだけでなく、私たちが共に働くための新たな方法を生み出していきます。

 未来は、人間とロボットが互いを補完し、両者の強みを最大化する協働システムの創造にあります。ロボットは効率を最適化し、生産を加速する上で非常に大きな価値を持ちますが、人間に取って代わることは不可能です。人間の作業者と共に、ロボットが持つ精度と一貫性を活用することで、生産性を向上させるだけでなく、より安全で活力のある労働環境を育めます。

 この調和のとれた協働によって産業界は新たな時代を迎え、技術の進歩と人間の創意工夫の両方が十分に実現できるようになるでしょう。国際的に認められた安全基準に準拠することにより、ロボティクス業界は障害のリスクを減らし、協働ロボットが人間の作業者と並び、高い信頼性を保ちながら安全に動作することを確実にできます。

 今まさに、ロボティクス、そしてソフトウェアの進展によって、さらに安全性が高くよりスマートでより持続可能な産業を実現するための重要な転換点が、2025年の産業界にもたらされています。

著者紹介:

アガルワル サッチン氏

アガルワル・サッチン(Sachin Aggarwal)
QNX カントリーセールスディレクター、日本

25年以上にわたりテクノロジー分野で様々な経験を積む。日本での長年のキャリアを経て、現在はQNXジャパンビジネスをリードしている。金融と国際ビジネスの経営学修士(MBA)、電子・通信工学の学士(BE)を取得。


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