産業とセーフティにおけるロボティクスの未来とはロボティクスの未来(2/3 ページ)

» 2025年05月08日 10時00分 公開

求められる高い安全性と新たな基準の設定

 こうしたロボットの活躍を可能にしているのが、安全性における進展です。安全性は、人間と機械が並んで作業するような、協調的かつ構造化されていない環境において、ロボティクスの急速な進化を促す原動力となっています。

 高い安全性を示す好例が、最新の生産ラインです。センサーが人間の存在を検知し、近づきすぎている人がいる場合に機械を停止させます。将来的には、AIと高度なソフトウェアによって、このような安全性はさらに強化されるでしょう。

 例えば、ロボットは人間の動きのパターンを分析し、動的に対応できるようになるでしょう。特に、速いペースでの動きが事故の可能性を高めてしまう倉庫のような高リスクな場所では、こうした高い安全性が役立ちます。

 一方で、ロボティクスや自動化システムの機器の故障によって、致命的な人身事故や大きな収益損失が引き起こされる可能性もあります。このように不具合が甚大な被害や損失につながるミッションクリティカルなシステムでは、正確かつ確実に動作し、最も優先度の高いプロセスが最初に実行される必要があり、障害から自律的に回復できることも求められます。

 こうしたロボティクスにおける安全性を具体的に定めているものとして、産業用ロボットについて定めるISO 10218と、サービスロボット(生活支援ロボット)に関するISO 13482、またIEC 61508などの安全基準があります。

 2025年2月には、このうちISO 10218の改訂版であるISO 10218-1:2025が発行されました。これは産業環境におけるロボットの本質的な安全設計とリスク低減措置、また使用上の情報に関する要件を規定するもので、特定の機械や機械グループに関する安全要件を詳細に規定する分野別規格(タイプC規格)です。

 産業用ロボットおよび産業用ロボットシステムで想定される特定のリスクを意識して作成された規格類ですが、水中や航空/宇宙、医療/ヘルスケアなど一定の産業は対象外とされています。

 一方、ISO 13482についても改訂版の発行が今後数カ月以内をめどに予定されています。日本では、高齢化と労働力不足などを背景に生活支援ロボットがより身近になっていくと考えられます。

 また同規格はJIS化されてJIS B 8445として発行されていることから、日本国内でも改訂版の発行による直接の影響があるかもしれません。

 IEC 61508は電気、電子、プログラマブル電子システムの機能安全を確保するためのフレームワークを提供します。これらの基準に準拠することで、ソフトウェアとハードウェアの両方で安全上の危険を最小限に抑える設計が可能になり、システム障害のリスクが軽減されます。

協働ロボットの増加と新たな安全基準

 ISO 10218に関しては、今回の改訂以前にも、特に安全なRTOS(リアルタイムオペレーティングシステム)という観点から、ロボット工学における機能安全の重要な役割を強調してきました。

 その理由は、ロボットと人間が作業空間を共有する場合には、決定論、信頼性、リアルタイムパフォーマンスのいずれも妥協できないという点にあります。

 人間と作業空間を共有する「協働アプリケーション向けロボット」(協働ロボットまたはコボットとも呼ばれる)の世界市場は、2033年までに、約235億ドルに達すると予想されています。

人間と作業空間を共有できる協働ロボットの市場が広がっている 人間と作業空間を共有できる協働ロボットの市場が広がっている(画像はイメージです)

 産業オートメーションは、共存環境から、機械が人間と共有ワークスペースで協働する、よりコラボレーティブな環境へと移行しています。協働ロボットは、2025年までに自動車セクターの全ての産業用ロボットの34%を占めるとも予測されており、その一方で、協働ロボットの複雑性の増加が新たなリスクをもたらすことも予期されます。

 そうした中、ISO 10218の改訂によって、コアソフトウェアレベルで組み込まれ、認証可能な安全性が、より強く求められることになりました。これにより、ロボットメーカーやインテグレーターが機能安全にアプローチする方法に大きな変化がもたらされています。

 この改訂は単なる更新にとどまらず、ロボットの安全性に取り組むベンダーにとってロボットの変革を意味しています。安全性を後付けのものとしたり、コンプライアンスを満たすためのものとして扱ったりする時代は終わり、安全性を障壁ではなく基盤として再考する時が来たのです。

 なぜなら、この新しい自動化の時代において、安全性は設計上の必須事項であり、制約ではなく競争上の優位性だからです。

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