ギガキャストの採用部位は当初、アンダーボディーが主だったが、アッパーボディーにも広がりつつあるという。バッテリーケースにギガキャストを使用する例もある。ただ、ギガキャストの製造コストもあり、採用モデルはテスラ以外の自動車メーカーでは高級車が中心になる。そのため、2020年代のギガキャスト市場の成長はスローペースになりそうだとしている。ギガキャストのコストが下がれば、高級車だけでなくエントリークラスにも採用が広がる可能性がある。
地域別にみると、ギガキャストへの対応や市場成長が速いのは中国だ。北米と欧州がそれに続く。中国では、計画も含めるとギガプレス(大型ダイカストマシン)が100台導入される。部品の供給力としては年間1000万個分に相当し、供給過剰な状態になる見通しだ。ただ、部品を外部調達する方針の自動車メーカーにとっては有利な環境だ。北米ではテスラの他、リビアンや日系自動車メーカーが導入すればギガプレスは30台以上になりそうだ。
すでに採用しているテスラ以外では、中国のシャオミやファーウェイがギガキャストに積極的だ。日系自動車メーカーでも、トヨタ自動車や日産自動車、ホンダも採用を表明している。
ギガキャストの大きな特徴は、部品点数と金型を大きく減らせる点だ。テスラ「モデルY」の場合、約170個の部品とそれを製造する400〜500の金型が、部品2つと金型2つに集約される。これにより、溶接や組み立ての治具を削減でき、工程の簡素化による原価低減のポテンシャルが期待できる。
ギガキャストは開発スピードの面でも有利になるという。また、軽量高剛性になることで車両の操縦安定性向上にも貢献するとしている。リサイクル材を活用して資源循環に取り組むことも可能だ。また、車体をモジュールに分割して最後に組み上げる「モジュラー生産」とも相性がいいという。
さまざまなメリットや期待が語られるギガキャストだが、課題は多い。1つはサイクルタイムの長さだ。現在、アンダーボディーのリョービ試作品ではサイクルタイムが153秒だ。設備の動作タイミングなどで20〜30秒を短縮したとしても、温度が下がるのを待つキュアリングタイムなど金型が起因となるサイクルタイムが残る。生産性向上が不可欠だ。
また、部品によっては6〜10mmの肉厚になるため、鋳巣を防ぐことも必要だ。衝突安全性能のために壊れ方を設計する場面で鋳巣はネックになる。凝固速度や冷却速度など材料特性や金型の工夫で品質を高める必要がある。ねじやナットによる締結部分の設計も自動車メーカー各社が工夫しており、成形を含めた信頼性向上が求められる。成形後の部品は薄肉の部分が多く、置き方によっては自重で変形する可能性もあるという。
金型を中心にさまざまな課題や改善点を抱えているが、ギガキャスト採用台数はまだ多くない。ギガキャスト用金型は寿命が短いとされているが、採用モデルが少なければ金型の寿命を使い切れない可能性もあり、ギガキャスト普及初期は金型の安さが重視されそうだ。台数が増えれば金型の生産性も重要になっていく。
ギガキャストでは大きな部品を鋳造するため、鋳込み量が多くなる。大量の溶湯が通過するための湯流れ対策や、金型への焼き付きへの対応も必要になる。難易度の高いギガキャストの解決策としてダイス分割工法がある。複数に分割した埋子により、対策の幅を広げることができる。ただ、大きな分割ダイスは国内での調達が難しい。分割を増やせば国内でも対応可能だ。
高性能な埋子は金型の付加価値や成形品質の向上にもつながる。リョービはギガキャストに必須となる「3D埋子」の開発も進めている。3D埋子は凝固速度や冷却速度の向上、離型時の変形対策や寸法管理に貢献する。ただ、劣化すると水漏れを起こす場合があり、信頼性には課題が残る。水漏れが起きると工程がやり直しになる。3D埋子の寿命や性能に直結する冷却管の設計では、水流れや熱応力など解析の活用も重要だ。
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