トヨタの国内工場で進む「次世代EVの準備」と、「匠の技の継承」メイドインジャパンの現場力(40)(1/3 ページ)

トヨタ自動車は貞宝工場や元町工場、明知工場でのモノづくりの取り組みを発表した。

» 2023年09月20日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 トヨタ自動車は2023年9月19日、貞宝工場や元町工場(愛知県豊田市)、明知工場(愛知県みよし市)でのモノづくりの取り組みを発表した。

 同社は2023年6月に、2026年に市場投入する次世代EV(電気自動車)や、次世代電池のラインアップ、EVの収益性を向上する仕事の進め方の方針などについて公表。国内工場3カ所のモノづくりの取り組みはこれらの計画の実現に貢献するものだ。

 トヨタ自動車 執行役員兼Chief Production Officerの新郷和晃氏は「モノづくりの未来を変えるには、技能や技術とデジタルの融合による進化と、リードタイム短縮による『素早く何度もチャレンジできる環境』が必要だ」とコメント。技能や技術とデジタルの融合により「工程2分の1」を実現するとともに、開発と生産の垣根をなくして新たなモビリティを素早く提供することを目指す。また、工場のカーボンニュートラルや物流などモノづくりの基盤の課題解決も推進する。

 新郷氏はトヨタ自動車の強みが3つあると説明。1つは創業期からの「誰かの仕事を楽にしたい」「みんなの笑顔のために」という精神が現場に根付いている点だという。2つ目は高い技術や技能が受け継がれている点で、ロボットを使った自動化での品質と生産性の両立にも生かされているとしている。3つ目はTPS(トヨタ生産方式)やモノづくりへの熱意をもって改善を継続できる人材の育成だ。

 これらのトヨタらしい強みを生かし、継承していくことが生き残りの中で重要になるという。

貞宝工場

 推進している取り組みを工場ごとに紹介する。貞宝工場には、2021年に「スタートアップスタジオ」が開設された。メンバー同士が意見交換できるラウンジや、モノづくり工房も併設し、アイデアの具現化や試作開発、量産技術の開発に取り組める環境が整備されている。

スタートアップスタジオ[クリックで拡大] 出所:トヨタ自動車

 また、板金技能を進化させる「匠工房」も活動している。板金技能の熟練者とその後輩が設計図のないところから創作物を制作し、技能や技術を継承する。

 熟練者の技能の継承にはデジタルも活用している。現場の技能は暗黙知も多く、言葉で伝えるのは難しい。後進の育成に時間がかかることや、指導者の数が限られていることなどが課題だ。トヨタ自動車では、暗黙知の技能をデジタルで見える化し、熟練者のノウハウを分かりやすく簡単に、次世代に広く継承できるツールを開発し、活用している。デジタル解析した熟練者の技能を自動化に取り入れることも視野に入れている。

デジタル活用による匠の技能の継承[クリックで拡大] 出所:トヨタ自動車

 貞宝工場では、設備づくりや既存設備の生産性向上にデジタルツインを活用している。設備づくりでは、新たな生産設備の立ち上げにおいて、設備の3Dモデルを通じて図面上では予期しない不具合を事前に洗い出せるようにした。設備の設計担当や製造担当、設備を使う作業者が不具合の洗い出しに参加し、現場の知恵を設計段階から3Dモデルに反映する。完成度の高い設備をやり直しせずに現場で導入できるようになるため、設備の設計から生産開始までのリードタイムが半減した。

 既存設備も3Dモデル化し、現場の技術や技能を生かした改善を加えている。例えば、金型や設備部品の加工設備はこれまで人に頼っていた材料投入などの作業を3Dモデル上で改善、自動化。それを実際の設備に反映させることで生産性を3倍に、改善にかかるリードタイムを3分の1にした。

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