貞宝工場には全固体電池やバイポーラ型リチウムイオン電池の開発ラインも設置されている。全固体電池はEV向けに2027〜2028年ごろの実用化に向けて製品開発や量産工法の開発が進む。全固体電池は負極や正極、固体電解層が隙間なく密着することが理想だ。これを実現するため、からくりの応用や同期制御の革新技術によって高速かつ高精度に電池素材を積み重ねる工法を開発した。
バイポーラ型リチウムイオン電池は2026〜2027年の実用化を目指す。製品開発や量産工法の開発に取り組んでいるさなかだ。バイポーラ型リチウムイオン電池の塗工工程では、性能を最大限に引き出すために、リン酸鉄リチウム(LFP)のペーストを高速かつムラなく金属箔に塗る必要がある。これを、HEV(ハイブリッド車)で培った電池生産の知見と燃料電池の高速塗工技術を応用した設備によって実現する。
明知工場では、これまで数十点の板金部品で作っていた部品をアルミダイカストで一体成形する「ギガキャスト」の試作用設備を手掛けている。ギガキャストは、シンプルでスリムな構造設計に見直して一体成形することで部品点数や工程数を減らし、工程ごとのムダを抑制する狙いがある。
ギガキャストは定期的に鋳造の型を交換する必要があり、通常ではその交換に24時間かかる。エンジン製造の鋳造技術や、低圧成形やダイカストに用いる金型の知見を生かすことで、素早い交換が可能な金型を開発した。型の交換に必要なリードタイムは20分に短縮し、稼働停止時間を削減する。さらに、独自の解析技術を用いて鋳造品の品質を高め、不良品の発生を抑制する。
明知工場にはモータースポーツ向け超高性能エンジンの部品の成形にかかわる熟練者も在籍している。モータースポーツ向けのエンジン部品は複雑な内部構造を持ち、中子(なかご)を用いて成形する。熟練者の造形技術により、1g単位で中子を調整することで実現する成形だという。熟練者の技能が、モータースポーツを起点とした「もっといいクルマづくり」にも貢献している。
次世代EV向けの実証生産ラインは元町工場に設けられている。新しいモジュール構造や「自走搬送」により、工程と工場投資をそれぞれ半分に減らす。車両はフロント、センター、リアの3分割のモジュール構造とすることでオープンな環境で作業できるようにし、人が乗り込む作業に比べて効率化や生産性の向上が図れるという。
自走搬送も元町工場で実用化した。自動運転車の制御技術や工場に設置したセンサーによる認識技術を組み合わせることで、極低速での安定した走行を実現した。次世代EVの生産ラインに適用することで、ラインのレイアウトの柔軟性を大幅に向上させる。また、生産準備のリードタイムや工場投資を大幅に削減する。
コンベヤーで搬送しない工程は元町工場の一部の溶接工程で実装済みだ。次世代EVの生産ライン向けに設備開発の課題をフィードバックしていく。
元町工場は、量産車の意匠性や機能性を高める加工技術にも取り組む。その一例が、「クラウンスポーツ」から採用されるピアノブラック調バンパーだ。熟練者が金型を均一に鏡面のように磨き上げることで、塗装なしの素材本来の色でツヤのあるピアノブラックのバンパーを量産できるようにした。塗装が不要になることで塗装作業によるCO2排出を削減できる。また、多少のキズはふき取りで落とせるなど補修性も高めている。
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