京都大学は、工業的に重要な高分子であるポリビニルアルコールの一次構造を多重に制御する手法を開発した。ホウ素を高分子合成に活用することで、分子量や分岐構造、立体規則性などの一次構造の多重制御に成功した。
京都大学は2025年4月7日、工業的に重要な高分子であるポリビニルアルコール(PVA)の一次構造を多重に制御する手法を開発したと発表した。ホウ素を高分子合成に活用することで、分子量や分岐構造、立体規則性などの一次構造の多重制御に成功した。
PVAは、医療用材料や偏光フィルム、接着剤など幅広い用途で利用される高分子だ。炭化水素主鎖に水酸基側鎖が直結した構造を持ち、高い親水性、生体適合性、結晶性、分解性などを有する。そのため一次構造を多重制御できれば、水酸基の周辺環境の違いに依存したPVA特性の変化により、高機能化や用途拡大が期待できる。
研究グループは、PVAの多重制御を可能にするため、アントラニルアミド基でホウ素を保護したモノマーを設計。ラジカル重合と水酸基化を実施したところ、置換基がない場合は分岐構造を持つPVAが得られた。アミド基上にメトキシエチル基などの置換基を導入した場合では、分岐構造を持たない直鎖PVAが得られた。
この直鎖PVAは、ポリマー側鎖の置換方向(立体規則性)に規則性がない、アタクチックなPVAだと分かった。一方、(S)-2-メチルブチル基などのかさ高い置換基を導入すると、隣り合う側鎖が同じ方向を向いたイソタクチックPVAとなった。
また、かさ高い置換基を導入すると、ホウ素側鎖同士の立体反発で主鎖がらせん様の立体配座をとることが示唆された。これによって重合中の成長ラジカル種とモノマーの反応方向が規定され、それが立体規則性制御の鍵となることが示された。
これらのホウ素モノマーは、連鎖移動剤を用いた可逆的付加−開裂連鎖移動(RAFT)機構による制御ラジカル重合にも利用でき、異種モノマーとのブロックコポリマー化を含む多重制御も達成した。例えば、ジメチルアクリルアミドとアタクチックPVAから、ブロック共重合体を合成。また、アタクチックPVAを得られるホウ素モノマーとイソタクチックPVAを得られる別種のホウ素モノマーのブロック共重合とホウ素側鎖変換により、ステレオブロックPVAを合成できた。
今回得られたPVAは、立体規則性や異種ポリマーとのブロックコポリマー化を反映して多様な結晶化挙動を示し、その物性をさまざまに変化させる可能性がある。これにより、水溶性や耐水性の制御など、目的に応じた機能付与につながることが期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.