京都大学は、ホウ素の特性を活用することで、分岐構造を持つポリビニールアルコールの合成に成功した。新しい物性、分解性の発現や機能性材料への展開が期待できる。
京都大学は2024年7月16日、ホウ素の特性を活用することで、分岐構造を持つポリビニールアルコール(PVA)の合成に成功したと発表した。新しい物性、分解性の発現や機能性材料への展開が期待できる。
PVAは、日常生活や先端研究の現場において、さまざまな目的で使われる水溶性ポリマーだ。一般的にPVAは、酢酸ビニールのラジカル重合と重合後の加水分解によって製造され、直鎖構造を保有している。
今回の研究では、ビニール基にホウ素が直接結合した化合物(ビニールボロン酸ピナコールエステル、VBpin)をラジカル重合し、重合後に側鎖の炭素−ホウ素結合を酸化することで、多数の分岐構造を持つPVAの製造に成功した。
VBpinをモノマーとして30℃で溶媒を使わずにラジカル重合を行うと、比較的分子量の大きいポリマーが得られた。このポリマーのホウ素側鎖を過酸化水素と水酸化ナトリウムを使って酸化し、ホウ素原子を水酸基に置き換えることでPVAへと変換した。このPVAの構造を既存のPVAと比較したところ、IR測定では、定量的にホウ素側鎖が水酸基へと変換されていることが判明した。
1H NMR測定結果からは、製造したPVAが酢酸ビニールから製造したPVAとは異なる1次構造になっていることが分かった。さらに13C NMR測定では、酢酸ビニールから製造したPVAと比べてポリマー鎖末端の一級アルコールに対応するピークが増大していること、また3級アルコールに対応するピークが示された。
この結果より、ホウ素モノマーのラジカル重合では、成長ラジカル種が主鎖の炭素−水素結合と反応してラジカル種を生じるバックバイティングといわれる反応が何度も起こり、多数の分岐構造をつくり、側鎖変換後に1級、3級アルコール構造ができたと考えられる。得られたPVAは分岐点として3級アルコール部位を持ち、全ての繰り返し構造中における分岐点の割合は約10%ほどであることが明らかになった。
酢酸ビニールの重合では側鎖に対するバックバイティング反応は発生するが、加水分解によって分岐構造は消える。一方、ホウ素モノマーのラジカル重合では、主鎖の炭素−水素結合に対するバックバイティング反応が起こり、この構造は側鎖変換後も保たれるために分岐PVAができたことになる。また、直鎖構造を付与する酢酸ビニールと分岐構造を付与するホウ素モノマーのラジカル共重合とワンポット反応での側鎖の水酸基化からPVAの分岐構造の割合を変えられることも判明した。
分岐構造を持つPVAは、示差走査熱量測定(DSC)、X線回折測定(XRD)から結晶性を発現しないこと、そのために室温の水に速やかに溶けることが分かった。この物性は結晶性、難水溶性を持つ直鎖PVAとは大きく異なっている。今後、この分岐構造による新しい物性、分解性の発現や機能性材料への展開が期待される。
PVAは、生体適合性や分解性の特性も注目されている。今後、分岐構造の有無とその割合がこれらの特性にどのような影響を与えるのかを調べることで、PVAの新しい応用に向けた展開が考えられる。さらに、分子中のホウ素は酸素以外のさまざまな元素に変換できるため、多様な側鎖構造を保有する分岐ポリマーの合成が期待される。
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