走るクルマからトンネル内のボルトに無線給電、センサーがゆるみ具合知らせる車載電子部品

京都大学とミネベアミツミは2020年10月9日、会見を開き、無線給電技術を活用したトンネル内のインフラ点検の実証実験を開始すると発表した。

» 2020年10月15日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 京都大学とミネベアミツミは2020年10月9日、会見を開き、無線給電技術を活用したトンネル内のインフラ点検の実証実験を開始すると発表した。

 トンネル内の排煙用ジェットファンなどを固定するボルトに軸力センサーを設置し、ボルトのゆるみがないかを点検し、予知保全を行う。軸力センサーにはバッテリーを搭載せず、専用車両が検査で軸力センサー付近を通過する際に車両からマイクロ波で給電し、センサーデータを車両で収集する。

 日本国内では建設から50年以上経過したトンネルの比率が2033年に50%に達する見通しだ。熟練作業者による検査だけでなく、人手不足に対応して省力化できる検査のニーズが高まっている。

通行止めせずにインフラ点検が可能に

 インフラ点検の流れとしては、走行中の車両がトンネル内でボルトの位置マーカーを検出すると、画像処理で送電アンテナと位置マーカーの角度情報を算出。この結果を基に送電アンテナはボルトに向けてビームの指向性を制御して給電、ボルトの軸力センサーの送信モジュールが車両にデータを送信するという工程だ。車両を走行させながらボルトの軸力のデータを収集できるため、交通規制を省略したり、インフラの広範囲を効率的に低コストで点検したりすることが可能になる。

車両側に搭載する装置(クリックして拡大) 出典:京都大学、ミネベアミツミ

 実証実験に用いる車両は、ボルトの軸力センサーに給電するためのマイクロ波送電アンテナ、センサー情報を受信するための路車間通信機、軸力センサーを取り付けたボルトの位置マーカーを検出するカメラを搭載している。送電用アレイアンテナは、車両の側面に縦4個×横12個で素子が並べられている。水平方向に±75度、1ms単位で位相を制御する。これに合わせて、位置マーカーを検出するカメラは広角レンズで150度をカバーするとともに、フレームレートは1000fpsとした。また、カメラは位置マーカーの検出だけでなく、その他の異常を画像で検知する用途も兼ねることを想定している。

 ボルトは、受電モジュールや軸力を検知するひずみゲージ、センサー情報を車両に送る送信モジュールを搭載している。ひずみゲージは高感度と超低消費電力を両立したタイプで、ボルトの内部に埋設する。ボルトに全て一体化したタイプと、受電モジュールを分離して複数のボルトに給電できるタイプを試作している。

ボルト側のセンサーの構成(クリックして拡大) 出典:京都大学、ミネベアミツミ

 これらの技術は、京都大学のセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラムにおいて、ミネベアミツミの研究開発グループが主体となって開発。マイクロ波無線送電、高速画像信号処理、ボルトの緩みを直接検出する「電池レスボルト軸力センサー」の要素技術を結集した。

 すでに、時速80kmで走行しながら位置マーカーを検出できることを確認済みだ。今回の実証実験では場所の制約から時速50kmでの走行となるが、センサーの位置検出に加えて、実際にセンサーに給電して送信モジュールが車両側にデータを送信する路車間通信までを検証する。

 実証実験は2020年10月19〜24日の5日間、京都府宮津市字滝馬にある地蔵トンネル避難坑内で行う。本線トンネルとは異なる避難用のトンネルで、一般の車両は進入しない環境だ。トンネル外部への電波漏えいを防ぐ電磁シールドを出入り口に設ける。実証実験は、京都府の協力を得て国家戦略特別区域制度を活用しており、近畿総合通信局から京都大学が免許の発給を受けて行う。

 今後は、トンネルだけでなく、橋梁や道路の舗装、下水道管路など、老朽化に起因する事故や損傷の影響が大きくなりやすいインフラでもワイヤレス給電による検査システムの用途を模索する。

→その他の「車載電子部品」関連記事はこちら

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.