MIの船出を後押しするデクセリアルズの伴走手法とは?マテリアルズインフォマティクス最前線(5)(3/4 ページ)

» 2025年04月16日 10時00分 公開
[遠藤和宏MONOist]

PoCフェーズとは?

MONOist 調査フェーズに続くフェーズについても教えてください。

高田氏 2023年8〜12月にかけてはPoC(Proof of Concept、概念実証)フェーズだった。PoCフェーズでは、選定したMIツールが、調査フェーズで設定した共通目標の達成に貢献できるかについて評価を行った。まず、オプティカルソリューション事業部の製品開発チームにPoCテーマを募集したが、応募は1件も寄せられなかった。そこで、「声掛けしてPoCに誘う」「追加実験不要の選択肢を用意」「追加実験の工数を補助」の3つの作戦を順に実行した。

 「声掛けしてPoCに誘う」では、MI推進チームが製品開発チームに直接ヒアリングしながらテーマ抽出を行った。これらのテーマに対して、「追加実験不要の選択肢を用意」では、製品開発チームから過去実験データを提供してもらい、MI推進チームがMIツールで解析した結果を説明した後で実験に進むか判断してもらった。製品開発チームとのヒアリングで、MIに興味はあるがどんなものか理解できないという意見も多かったことから、MIの間口を広げるために過去データを分析してサマリーを作るだけでもMI推進チームが積極的にサポートした。

 「追加実験の工数を補助」では、MIに興味はあるが工数に余裕がないと答えた製品開発チームに、MI推進チームが実験/測定作業の工数補助を行う条件付きでPoCに参加してもらう作戦だ。製品開発チームとしては工数負担を軽減できるし、MI推進チームとしてもPoC事例増につながる。

 具体的なテーマ数は開示できないが、声掛けにより抽出したテーマの中から追加実験に進んだのは全体の50%で、工数補助があるから追加実験に進んだのはテーマは全体の30%だった。

 その他にも、MI推進チームは各PoCテーマに対して、課題整理、データ分析、実験・測定補助、社内の事例共有と、全般にわたって伴走しサポートした。もともと同じ実験室で製品開発をしていた仲間だからこそできる、製品開発者に寄り添った取り組みによりPoCのスモールサクセス(小さな成功体験)を積み重ねていった。

実際に行ったPoCのサポート 実際に行ったPoCのサポート「クリックで拡大] 出所:デクセリアルズ

高田氏 PoCフェーズの成果としては、全く同じ条件での比較はできていないため検証が必要だが、「確かめ算テーマ」の実験では開発に2年以上かかった製品を機械学習モデルにより2カ月で導出するという実績が得られた。この実験はMI推進チームだけでPoCを立案/実施しており、他ならぬMI推進チーム自身がMIに対する手応えをつかめた点でとても重要なテーマだった。製品開発チームにとってもなじみ深い製品をMIの題材にしたことで、同チームのMIに対する肯定感の醸成にも繋がった。

 また、機械学習モデルにより予測モデルを構築し配合の妥当性を検証したり、データを可視化し開発者の思考を整理したりと、「AIが提案した配合で目標物性を達成」という当初のMIのイメージとは異なる活用方法も行うことで開発者との対話の機会が増えた。これにより、開発者にMIが受け入れられ始めた。

PoCフェーズの成果 PoCフェーズの成果「クリックで拡大] 出所:デクセリアルズ

高田氏 2023年12月〜2024年4月にかけては報告フェーズだった。

 報告フェーズでは、調査フェーズで設定した共通目標と、PoCフェーズの成果を踏まえて、翌年度に導入するMIツールの最終決定を行ったが、合意はスムーズだった。

 報告会の年間スケジュールは調査フェーズの時点で計画済みで、進捗報告会を毎月開催するなど、計画的/定期的な情報発信を行っていたことで進捗の見える化ができていたため、スムーズな合意形成につながった。

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