自動車に不可欠なモーターとパワー半導体、東芝の戦略は車載半導体(2/5 ページ)

» 2025年04月03日 07時30分 公開
[齊藤由希MONOist]

 人間の脳が自動車にとってのCPUやアナログIC、メモリだとすると、目や耳は周辺を監視するセンサーに、大きな力を出すために動く心臓や筋肉はパワー半導体に相当するという。東芝が手掛けるアナログICは利便性向上やシステムの消費電力削減に、パワー半導体は走行可能距離の拡大や駆動用バッテリーの搭載自由度増加に寄与するとしている。

 パワー半導体は、高速でスイッチングすることで高電圧/大電流を制御し、電力を変換する役割を担う。電子機器が使いやすい電圧や電流に加工するため、交流から直流への変換、直流から交流への変換、交流の周波数の変換、直流電圧の昇圧/降圧といった4つの働きを持つ。

 電流オンでの抵抗ゼロや、電流オフでの漏れ電流ゼロ、オンオフ切り替えの遷移時間ゼロ、スイッチング周波数を高くして出力特性を上げることができる……というのが理想だが、実際のデバイスでは電流のオンオフや切り替えで電力損失が発生する。損失の低減は破壊耐量やノイズ特性とトレードオフの関係にあり、低損失を追求しながら耐久性やノイズを対策することは難しい。また、周波数を高めると損失が増えてしまう。

パワー半導体の役割[クリックで拡大] 出所:東芝デバイス&ストレージ

 東芝は、1957年にゲルマニウムトランジスタなどを生産して以来、60年にわたってさまざまな領域の電力効率化や省エネに寄与してきた。また、鉄道や変電所などのインフラでパワー半導体の採用実績がある。車載用としても、2000年代から搭載されている。スーパージャンクション、ゲートフィールドプレートといった複雑な構造の開発にも取り組んできた。さらに、最近ではGaNやSiCなど化合物半導体や、国内初となる300mmウエハーでのパワー半導体の生産なども推進している。

 車載アナログICは50年間で30億個の量産実績があり、MCU内蔵のモータードライバに加えて、次世代車載ネットワーク向けのICや48V耐圧ドライバなど新しいソリューションの開発を進めている。車載品質として、機能安全やフェイルセーフ、ノイズ対策に力を入れている。

シリコンとSiCは共存

 パワー半導体は、SiCの適用によって消費電力低減やインバーターの小型軽量化が進む。現在使われているシリコンのIGBTに対し、SiCトレンチMOSは効率改善や軽量化によって走行可能距離が8%増加すると試算している。インバーターなどを軽量化した分を駆動用バッテリーの増量に充てるとさらに走行可能距離を増やせる見込みだ。

EVでのパワー半導体の効果[クリックで拡大] 出所:東芝デバイス&ストレージ

 パワー半導体のうち、SiCは高耐圧化が、GaNは高周波対応の用途に向く。これらの新材料はシリコンのデバイスでは対応できない容量のアプリケーションで普及し、シリコンと新材料の境界領域にある用途では新材料が優勢になると見込まれている。ただ、SiCはコストや結晶の品質に課題があり、これらの解決に加えてデバイスとしての使いこなし技術が求められる。

SiCやGaNの市場見通し[クリックで拡大] 出所:東芝デバイス&ストレージ

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