車載用はパワーコントロールユニットやオンボードチャージャーなどの小型化や高効率化のためSiCの適用が進むと見込んでいる。鉄道でも同様のメリットを狙ってSiCの採用が広がる。洋上風力発電は、SiCによる変換ロス低減や軽量化が期待されている。鉄道や電力などインフラ向けが普及をけん引することで、SiCパワー半導体のコストや品質の課題が解決される見通しだ。
全てがSiCパワー半導体に置き換わるわけではなく、シリコンとSiCが共存するとみている。駆動用モーターは大容量のためSiCとシリコンのIGBTが共存する。それよりも小さい補機用などの車載モーターはシリコンのMOSFETが今後も主流になる。
具体的には、比較的小容量な用途やHEV(ハイブリッド車)向けはシリコンのIGBT、EV(電気自動車)向けはSiC MOSFETが使われる。駆動用モーターは市場が大きく、顧客のカスタム要求が強いという。東芝はシリコンIGBTとSiC MOSFETの両方を用意し、フルラインアップで対応していく。
東芝はSiCパワー半導体では、鉄道などで培った3kV以上の高耐圧向け技術をベースに、1.2kV以下の車載や再エネ、送配電向けに展開していく。強みになるのは、高電圧と大電流に耐える欠陥制御技術や、デバイスの使いこなし技術、デバイス構造や最終出荷時のテスト技術などだ。産業向けの展開が先行しているが、車載用は開発中で、トレンチ構造の導入による高性能化でさらなる電力損失低減を目指す。
SiC MOSFETに関しては、2024年11月に新構造で低オン抵抗と高信頼性を両立した1200V耐圧のベアダイ製品を開発し、テストサンプル出荷を開始した。
インバーター向けには、低オン抵抗と高信頼性を両立するショットキーバリアダイオード内蔵SiC MOSFETを開発中だ。SiCバイポーラデバイスに順方向電流が流れると、ウエハーの時点で含まれていた結晶欠陥の形成/拡大が進み、SiCデバイスとしての特性が変動するという課題がある。デバイスの特性変動はモジュールやインバーターの予期せぬ挙動を引き起こす恐れがある。
これらの課題に対して、東芝が提案するのがショットキーバリアダイオード内蔵のSiC MOSFETだ。ショットキーバリアダイオードに電流を流し、結晶欠陥の拡大を引き起こす順方向電流を流さないようにする。これにより特性の変動を防止する。内蔵するショットキーバリアダイオードの配置を工夫することで、低オン抵抗と高信頼性を実現する。
SiCパワー半導体は高性能だが、スイッチングスピードが速いためノイズの出やすさや破壊への対策が必要になる。トラクションインバーターでは、SiC MOSFETを効率よく制御することでシステムとしての効率向上を目指す。SiC MOSFETで低オン抵抗を実現するとともに、低ノイズと高効率の両立が可能なスルーレート制御技術によるアクティブゲート制御絶縁型ゲートドライバを組み合わせる。これにより、スイッチング損失とノイズのトレードオフの関係を打開するとしている。スイッチング損失は20%以上低減できることを確かめた。
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