東レは、斜め方向からの光のみを反射する特性を持つ広幅ナノ積層フィルム「PICASUS VT」の有償販売を開始した。
東レは2025年3月18日、斜め方向からの光のみを反射する特性を持つ広幅ナノ積層フィルム「PICASUS VT」の有償販売を開始したと発表した。同フィルムをHUD(ヘッドアップディスプレイ)に適用することで、フロントガラスの広い範囲にわたって二重像のない高鮮明な表示を実現するとともに、偏光サングラス着用時にも表示をクリアに視認できるようになる。
HUDは、自動車の運転に関連する情報をフロントガラス上などに表示することで、これらの情報を確認する際に運転中に進行方向から目線を逸らさずに済むため、ドライバーの安全性向上に貢献できる運転支援システムだ。現在は、フロントガラスの運転者正面の一部分に、速度や交差点案内などの情報表示を行っているが、マップナビゲーションや警告表示などのタイムリーな運転支援情報を、より広い範囲に鮮明に表示するための新たな投影技術開発の検討も進んでいる。
例えば、パノラマHUDと呼称される、フロントガラス下側全面に情報表示する技術では、運転席周辺のダッシュボードをコンパクトにできるため、広く快適なコックピット空間を創出できる。将来は、フロントガラスの大面積にわたり、近方/遠方の情報を同時に表示する技術の開発も検討されている。
しかし、現状のHUD技術は、ガラス面で反射しやすいS偏光の映像をフロントガラスに投影することで情報表示するが、一般的なフロントガラスの場合、ガラスの表面と裏面それぞれで反射されるため、映像が二重に見えてしまう。そのため、二重の映像にならない特殊なガラスを採用することで、部分的ながら鮮明な表示を実現している。また、S偏光を吸収する機能を持つ偏光サングラスは欧米などでは広く使われているが、着用時に映像が見えなくなる課題もある。
S偏光とは波の振動方向が光を照射する面に対して垂直である偏光を指す。平滑な表面での反射に寄与しており、水面のきらめきやガラス面での光の反射はS偏光が要因だ。偏光サングラスは主にこのS偏光をカットするように設計されている。
東レは、独自のナノ積層技術と光学設計技術により、正面から見た際にはガラス並の透明性を備え、斜めからの光に対して選択的に反射率を制御できるPICASUS VTのHUDへの用途展開を進めてきた。
PICASUS VTは、ガラス面で反射しないP偏光の映像を発する光源と組み合わせることで、上記課題を解決できる。HUD用投影部材としての特徴は以下の通りだ。「フィルム面でのみ映像を反射することで、大面積にわたり高鮮明な情報表示が可能」「偏光サングラス着用時でも高い視認性を確保」「手前から遠方までの奥行き感のあるAR(拡張現実)表示にも対応」。P偏光とは波の振動方向が、S偏光に対して垂直で、光を照射する面に対して平行な偏光だ。平滑な表面に特定の角度で照射すると、反射しなくなる特性を示す。
東レは、同フィルムに関する材料設計や製造設備/プロセス技術を深化させた結果、ほぼ全ての自動車フロントガラスに適用可能な1600mm幅のフィルムロールを供給できる体制を構築した。現在、顧客評価も本格的に開始している。
二重像レスの高鮮明かつ偏光サングラスにも対応した情報表示が実現できれば、運転支援情報を少ない視点移動でドライバーへ伝達できるとともに、日差しの強い環境下でも視認性を確保可能なため、運転時の安全性向上が期待できる。また、パノラマHUDにおける表示性の課題を解決することで、開放感のあるデザイン性に優れた車内空間の実現に貢献する。今後はフロントガラス大面積表示やAR-HUD表示の実現にも取り組む考えだ。
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