つながるCNCへ〜第3期前編 外部通信技術の進化CNC発展の歴史からひもとく工作機械の制御技術(5)(2/4 ページ)

» 2025年03月13日 07時00分 公開

工作機械の無人連続運転〜CNC外部通信機能を活用したシステム

 ここで、CNCの外部通信機能を用いることにより登場した新しい工作機械やシステムを紹介したい。森精機(現DMG森精機)が1999年に開発したLPP(Linear Pallet Pool)システムだ。これを図4に示す。

図4 森精機が開発したLPPシステム(画像は第2世代のLPPシステム) 図4 森精機が開発したLPPシステム(画像は第2世代のLPPシステム)[クリックでWebサイトへリンク]出典:DMG森精機のWebサイトより

 森精機は早期から工作機械の自動化に着手しており、これを実現した製品だ。まず、右奥に見えるのがマシニングセンタであり、これを夜間や週末に自動連続運転することが目的のシステムとなっている。右手前に見えるのが段取ステーションだ。

 オペレーターがあらかじめ、パレット上にワークを取り付けて必要な段取作業を行っておく。段取作業が完了したら、中央のレールに沿って動作するAGV(無人搬送車)がパレットを搬送して、左側に見えるパレット棚に保管する。パレット棚には多数の段取済みのパレットとワークを保管しておくことができる。

 マシニングセンタでの加工が完了したら、これもAGVがパレットごとワークを搬送して、パレット棚に保管する。続いて、AGVが別の段取済みパレットをマシニングセンタ内に搬送し、次の加工がスタートするのである。

 制御としては、AGVや段取ステーションの扉の動作にはPLCやモーションコントローラーが使われている。また、マシニングセンタにはファナックのCNCが用いられている。さらに、段取ステーションの横にPCが設置されており、自社開発のソフトウェアがインストールされている。

 このソフトウェアがSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)の役割を担っており、スケジュール管理とPLCやCNCに対しての指令を行っている。特にCNCに対しては、前のページで紹介した高速シリアルバスにより通信を行っている。

 PCにアダプターボードを取り付け、PC上のソフトウェアから高速シリアルバスを介してCNCに指令を行い、マシニングセンタの扉の開閉制御、NCプログラムの送信、加工スタート、アラーム状態の監視などを実施しているる。

 このように、CNCに外部通信機能が備わったことにより、工作機械の自動連続運転を可能とするシステムが登場するようになった。

つながる工作機械〜工場管理システムとの連携

 もう1つ、CNCの外部通信機能を活用することによって登場した新しいシステムを紹介したい。工場内にある全ての工作機械をネットワークに接続し、工場管理システムとの連携を実現した事例だる。

 まず、この背景として大手の製造メーカーが工場内の生産設備の情報を工場管理システムに集約し、革新的な工場の立ち上げに2000年頃から積極的に着手したことが挙げられる。その目的は工場内の生産設備の稼働状況を把握し、短納期での生産を実現することだった。

 この時期に好調だった自動車メーカー、自動車部品メーカー、電機メーカーなどが取り組んだ。ただ、こういった大手メーカーの自社工場における専用の工場管理システムは、そのほとんどが公開されておらず具体的な紹介が難しい。

 そこで、この時期に工場管理システムを構築した事例としてインクス(現SOLIZE)の2002年の金型工場を紹介する(図5)。金型は一品一様の製品であり、また、1つの金型は300個程度の部品から構成されている。そのため、量産部品を加工する工場と違い、金型部品を加工する工場では、形状や加工工程の異なる部品が常に製造されている。

図5 CNCのイーサネットによる外部通信機能を用いて工場内の全ての工作機械をシステムに接続したインクス(現SOLIZE)の2002年の金型工場 出典:「第1回 ものづくり日本大賞 受賞者たちの熱きドキュメント」(日本機械工業連合会、2006年3月)

 この金型工場では3DのCAD/CAMを早期に導入し、3Dモデルで金型を設計して部品展開を行い、3D CAMを用いてNCプログラムを作成していた。さらに、これらの金型部品データ、NCプログラム、段取や測定指示情報を全てサーバに保存し、工場管理システムにより管理を行っていたのである。

 しかし、課題となったのはこれらのデータを製造現場でどのようにひも付けて効率良く活用するかだった。

 そこで、この金型工場ではイーサネットによるCNCの外部通信機能を用いて、現場のマシニングセンタやワイヤ放電加工機といった全ての工作機械を工場内のネットワークに接続した。

 製造現場にあるPC上でこれから加工する金型部品を選択すると、その部品に関する情報がサーバから引き当てられる。そして、段取情報や必要な工具情報が表示され、対象のマシニングセンタにはNCプログラムが自動的に送信されるというシステムを構築した。

 さらに、工作機械の稼働状況もネットワークを介して収集することで、工場管理システムから一元的に生産管理も行えるようになった。この仕組みにより、多品種少量の加工を行う必要のある金型工場において、大量の部品を短納期で生産することが可能となった。

 この取り組みがもたらしたもう1つの新しい点は、NCプログラム作成作業と加工現場作業の分業だ。もちろん、難易度の高い部品製作は経験者がその全てを担うのは現在でも当然のことではあるが、作り方がすでに分かっている部品については分業による効率化が進んだといえるだろう。

 これもCNCの外部通信機能が製造現場にもたらした1つの変化だと考えられる。

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