長寿命の高性能光電陰極を簡便に作製できる新手法を開発研究開発の最前線

名古屋大学は、加速器などに用いられる高性能な光電陰極の新しい製造手法を開発した。従来法よりも簡便で、作製した光電陰極は酸素に対する耐久性が高く、表面から内部まで均質な組成比が得られる。

» 2025年03月11日 11時00分 公開
[MONOist]

 名古屋大学は2025年2月25日、加速器などに用いられる高性能な光電陰極の新しい製造手法を開発したと発表した。高エネルギー加速器研究機構、日本大学、あいちシンクロトロン光センター、アメリカのロスアラモス国立研究所との国際共同研究チームによる成果だ。

 光電陰極物質のカリウム(K)、セシウム(Cs)、アンチモン(Sb)を基板上に成膜したK2CsSb光電陰極の性能は、基板表面の清浄度や粗さ、表面配向に大きく影響を受ける。しかし、これまで化学量論的に均質なK2CsSb光電陰極を成膜する方法は確立されていなかった。

 研究グループは、グラフェンコーティングした基板を超高真空中で加熱(1時間、500℃)し、表面を清浄化した後、Cs、K、Sbを蒸着してK−Cs−Sb光電陰極を作製した。今回開発した「適正K蒸着法」では、SbとCsの蒸着条件は従来手法と同じだが、Kを量子効率(QE)が完全に低下するまで蒸着する。

 適正K蒸着法で作製した光電陰極のサンプルを超高真空状態で輸送し、X線光電子分光で分析したところ、従来の蒸着法よりも酸素に対する耐久性が高く、表面から内部まで均質な組成比であることが確認できた。また、放射光を用いて構造などを詳細に観測、分析可能になったことで、光電陰極の性能に影響を与える組成への理解も深められる。

キャプション 手法ごとの光電陰極構造の変化[クリックで拡大] 出所:名古屋大学
キャプション 従来蒸着法と適正K蒸着法を用いたK−Cs−Sbフォトカソードの組成の比較[クリックで拡大] 出所:名古屋大学

 適正K蒸着法による成膜は従来法と比べて簡便で、成膜した光電陰極の性能も高いことから、長寿命の高性能光電陰極を容易に活用できるようになる。加速器や電子顕微鏡への応用が期待される。

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