SAPは2025年度も「AIファースト」 クリーンコア推進でAIフル活用を支援製造ITニュース

SAPジャパンは2025年度の事業戦略発表会を東京都内とオンラインのハイブリッドで開催した。

» 2025年03月03日 10時00分 公開
[池谷翼MONOist]

 SAPジャパンは2025年2月19日、2025年度の事業戦略発表会を東京都内とオンラインのハイブリッドで開催した。2025年度の成長戦略の柱として、「AIファースト」と「スイートファースト」の2つを紹介した。

日本市場の成長がグローバル上回る

 2024年度のSAPのグローバルでの業績は、総売り上げが前年度比10%増の341億7600万ユーロ(約5兆3590億円)、純利益は同比11%増の249億3200万ユーロ(約3兆9007億円)となった。総売り上げの内、クラウド関連の売り上げは171億4100万ユーロ(約2兆6856億円)はクラウドERP Suiteの売り上げは同比34%増の約141億6600万ユーロ(2兆2199億円)となった。

SAPのグローバル業績[クリックして拡大] 出所:SAPジャパン

 またSAPジャパン 代表取締役社長の鈴木洋史氏は「日本市場は総売り上げ、クラウド売り上げなど全ての指標においてグローバルの成長を大きく上回ることができた。もはや日本市場ではクラウドが当たり前の選択肢となった」と語った。

 2025年度の成長見通しとして、クラウド関連の売り上げは2024年度比26〜28%増となる約216億〜219億ユーロ(約3兆3845億円〜約3兆4310億円)の達成を目指す。SAPジャパンもグローバルと同等程度の成長を目指すとする。

Joule主軸にAIエージェント機能も展開

 SAPは2025年度の成長戦略として「AIファースト」と「スイートファースト」の2つを紹介した。

「AIファースト」と「スイートファースト」を掲げる 「AIファースト」と「スイートファースト」を掲げる[クリックして拡大] 出所:SAPジャパン

 AIファーストの戦略で大きな存在感を放つのが、生成AIアシスタント「Joule」だ。2025年度の第1四半期にはアドオン開発に用いる「ABAP」の開発者向け機能を、第2四半期にはコンサルタント向けの機能をJouleに組み込んで一般提供開始する予定だ。開発要件を入力するだけでABAPでプログラムが自動生成される他、クラウドの設定変更に合わせたS/4HANAの最適なパラメーター調整も自動で実行される。これによってシステムの開発工数を大幅に削減しつつ、品質向上を図れる。また現在、「130個以上の生成AIのユースケースがすでにSAPクラウド製品に組み込まれている」(鈴木氏)という。

 鈴木氏はAIエージェントについても言及し、将来的にはJoule上で多数の個別エージェントが連携するとした。例えば、需要予測するエージェントがサプライチェーンマネジメントを担当するエージェントと連携することで、需要に応じた製品の配送、在庫管理をリアルタイムで行える。さらにこうした情報を特定エリアを担当するエージェントに渡すことで、需要と供給に関わるサプライチェーンの業務プロセスが自動的に完結する可能性がある。鈴木氏はこうした将来展望を踏まえて、「(AIエージェントは)他社と大きく差別化できる、当社ならではの優位性だ」と語った。

 AIが正確なデータを参照してユーザーを支援できるようにするための工夫も講じている。その1つが、2024年に発表した「SAP Knowledge Graph」だ。ユーザーによるAIへの問い合わせ内容に対応するデータが、どのデータベース/テーブルにあるか、どのAPIを利用すれば取得できるかをAIが理解しやすいようにする。

 鈴木氏はJoule上での日本語版のAIエージェント機能の提供時期として、2025年度の前半を予定しているとした。

AIフル活用のためクリーンコアの導入支援を強化

 鈴木氏は、AIのビジネスへの実装を促進する上で大切なのが「スイートファースト」の戦略だと位置付ける。AI、データ、ソリューションを統合して提供することで、顧客の課題解決を促進する。

 これを実現する新ソリューションが2025年2月13日に発表したデータ基盤「SAP Business Data Cloud」だ。SAPソリューションだけでなく、SAP以外のサービスで扱うデータを自動的に関連付けた収集し、正確かつ安全に管理できる。これによってAIがデータからリアルタイムでインサイトを抽出できるようにする。さらにこれらのデータを横断的に可視化するダッシュボードも提供する。

 また鈴木氏は、SAPのソリューションに搭載されたAIの機能をフル活用するには、ERPのカスタマイズを最小限に抑えた「クリーンコア」な状態にする必要があると指摘した。SAPではクリーンコアなシステムの速やかな導入を支援するツール群「Business Suite transformation with tool chain」を用意している。エンタープライズアーキテクト管理(EAM)のソフトウェア基盤「LeanIX」に始まり、ビジネスプロセス管理のソリューション/基盤「Signavio」、データレプリケーション/分析ツールの「Syniti」、テスト自動化ツール「Tricentis」、デジタルアダプションツール「Walk Me」などを活用してSAPソリューションの導入期間の短縮と本番稼働後の定着化を支援する。

クリーンコアを実現するツールチェーンを提供 クリーンコアを実現するツールチェーンを提供[クリックして拡大] 出所:SAPジャパン

 AIファースト、スイートファーストの戦略に合わせた、パートナーエコシステムビジネスの拡大戦略も展開する。AI関連のソリューションについての教育活動に加えて、クリーンコアかつFit to Standardでの導入を実現するための伴走支援などを行う。

 鈴木氏は「最先端のテクノロジーを駆使して仕事のやり方を抜本的に変えて生産性を大きく向上させることで、日本の強みである高品質なモノづくりやサービスが再び世界を席巻できるようにお手伝いする」と語った。

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