東京大学は、金属錯体骨格の光捕集能により、電子スピンを効果的に超偏極することに成功した。光励起により電子スピンのスピン偏極率を向上させる光誘起スピン超偏極は、量子技術への応用が期待されている。
東京大学は2025年1月28日、金属錯体骨格(MOF)の光捕集能により、電子スピンを効果的に超偏極することに成功したと発表した。九州大学、神戸大学、京都大学との共同研究による成果だ。
研究では、ポルフィリン誘導体(TCPP)から構成されるMOFを合成し、TEMPOラジカル誘導体(CTEMPO)を導入して、色素とラジカル電子スピンが共有結合で連結した分子「MOF−525−CTEMPO」を作製した。CTEMPOは金属中心に配位できるため、電子スピンの位置を正確に制御できる。
MOF−525−CTEMPOの表面における時間分解電子スピン共鳴を測定したところ、ポルフィリンの光励起後にスピン偏極した四重項状態になることが確認された。
色素−ラジカル電子スピン共有結合系における光励起後のスピンダイナミクス。二重項状態と四重項状態間のスピン選択的な遷移により四重項状態がスピン偏極する。スピン副準位の赤丸の面積は相対的なスピン占有率を表す[クリックで拡大] 出所:東京大学また、MOFの光捕集能により、ラジカル電子スピンの導入量が少ない状況でも、材料中の電子スピンが効果的に偏極される。これは、材料中で一重項励起子が、35個のポルフィリンリンカーを移動することによるものだ。
(a)MOF中の励起子拡散によって偏極した四重項が生成する過程。(b)MOF−525−CTEMPOの構造。(c)Q−バンド時間分解ESRスペクトル。光励起後0.1マイクロ秒(μs)後には四重項状態(Qのピーク)が見られることが分かる[クリックで拡大] 出所:東京大学光励起で電子スピンのスピン偏極率を向上させる光誘起スピン超偏極は、量子センシングや動的核偏極法(Dynamic Nuclear Polarization;DNP)などの量子技術への応用が期待されている。しかし、相互作用する3個の電子スピンのうち、その向きが平行な四重項状態を生成できるのは、これまで、色素−ラジカル電子スピン連結分子が固体内部でランダムに分散したものに限られていた。
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