安全規格以外の評価項目は、スタートアップが判定基準と併せて決める。評価項目が少なく判定基準が低ければ、設計期間は短くなり部品コストも安くできるが、その製品の品質レベルは低くなる。逆に、評価項目が多く判定基準が高ければ、設計期間は長くなり部品コストも高くなるが、その分、製品の品質レベルは高くなる。
しかし、初めて製品を作るスタートアップにとって、どの程度の品質レベルにするか、つまりどのくらいの数の評価項目と、判定基準のレベルにするかを決めるのはとても難しい。既に市場にある他社製品の評価項目と判定基準を参考にしようにも、それらは企業機密であるため知ることはできない。よって、相談に乗ってくれるODMメーカーの選定が重要になるのだ(参考:連載第4回「ODMメーカーの種類と特徴、そして選び方のポイント【中編】」)。
品質レベルはスタートアップが自由に決めてよいものではあるが、信頼性も安全性と同じく“壊れやすい”と評判になれば、その製品は売れなくなる。つまり、最終的な判断は市場が行うことを忘れてはならない。また、製品を市場に出した後は、品質に関して市場の意見を聞き、それを次の製品の設計に生かすことだ。これを繰り返すことによって、スタートアップの品質レベルが徐々に定まってくる。
製造性とは、その製品の製造時に、正しく組み立てやすいことである。正しく組み立てにくい製品は、組み立てミスが生じて不良が出やすい。製造性は、設計で対応すべき内容と、量産する製造(製品の組み立て)で対応すべき内容の2つに分かれる。設計検証で行う製造性の確認は、設計で対応すべき製造性の確認であるため、「正しく組み立てやすいように設計されているか」をチェックする。
この検証は、初めて製品を作るスタートアップにとっては難しいように思えるが、実は簡単だ。試作セットを自分たちで組み立ててみればよいのだ。検証のポイントを以下に列挙する。
スタートアップの担当者が自ら組み立ててみて、上記に関して何か問題があると感じたら、それは多くの場合、量産が始まってからも同じ問題が発生する。その理由は、量産の作業者だからといって、必ずしも製造経験が豊富とは限らないからだ。どちらかといえば、そのような傾向が強い。よって、見つけた問題点はどんどん指摘するのがよい。
ODMは設計製造を委託することなので、製造で不良品が発生した場合、それはODMメーカーの責任であり、自分たちには関係ないと思いがちである。しかし、不良品が市場に流出してしまえば、たとえその改修費用をODMメーカーに賠償してもらったとしても、製品の供給は滞り、ブランドイメージも著しく低下するなど、その代償は大きい。設計製造委託(ODM)だからといって、ODMメーカーに任せきりであってはならないのだ。 (次回へ続く)
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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