本連載では、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公開している「製造現場における無線通信技術の導入ガイドライン」に基づいて、製造現場への無線通信技術の導入について紹介しています。最終回となる今回は、ガイドライン第4章「無線通信技術の導入に向けて」に記載された内容を基に、無線通信技術の導入手順について解説します。
製造業のデジタル化が進むと、多くのプロセスが無線通信技術に依存します。デジタル化の効果を最大化するためには、無線通信技術の安定的な導入、運用が必須です。
本連載では、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公開している「製造現場における無線通信技術の導入ガイドライン」に基づいて、製造現場への無線通信技術の導入について紹介しています。
⇒連載「製造現場への無線通信技術の導入」のバックナンバーはこちら
これまで3回にわたり、製造現場の無線通信環境や各種ユースケースなどを紹介してきました。最終回となる今回は、ガイドライン第4章「無線通信技術の導入に向けて」に記載された内容を基に、無線通信技術の導入手順について解説します。
製造現場への無線通信技術の導入は、現場特有の課題や実現したいことを明確にし、その上で最も適切な無線通信技術を導入、運用していく必要があります。ここでは、ガイドラインに沿って、「検討フェーズ」「設計/設定フェーズ」「設置フェーズ」「運用フェーズ」の4つのフェーズに分け、それぞれの具体的な進め方を解説します。
まず、無線通信技術の導入にあたり、現場が直面している課題や実現したい目標を明確にし、無線通信の具体的な用途を設定します。
例えば、多品種少量生産が求められる工場では、ラインの柔軟な変更を実現するために、センサーやIoT(モノのインターネット)デバイスを無線化することが求められます。
また、物流管理の効率化や人手不足の解消を実現するためにAGV(自動搬送車)を導入する場合は、遠隔制御や監視を行う仕組みが必要になります。このように、実現したい目標や利用用途を明確にし、その実現に無線通信が必要かどうかを確認します。
なお、この段階で、現場課題に関する関係者へのヒアリングや、改善点を議論するセッションまたはワークショップを実施することで、課題と用途を整理し、対応の優先順位を決めることも有用です。
また、設備・無線機器ベンダーへのヒアリングや、Web・文献などで情報を収集することで、その用途の実現にどのような無線通信技術や機器が利用できるのかを確認しておくことも重要です。
用途が決まった後は、工場の現地環境を確認し、無線通信技術の導入可否と無線環境に影響を与える要因を確認します。
候補となる設置場所における環境的要因(環境的要因については本連載の第1〜3回、またはガイドラインを参照してください)に関して、工場の作業員の動線、通信距離、エリア、通信時間帯、タイミングなどを確認していきます。また、機器間の見通しが十分に確保されているか、電源の取得が可能か、当該エリアで干渉しそうな既存の無線通信機器が存在するかといった点についても整理します。
既存の無線機器の確認については、無線の管理台帳で記録されている情報を参照しつつ、可能であればスペクトラムアナライザーを使用して計測することを推奨します。
状況を事前に把握し適切に対応策を検討することで、問題を未然に防ぐことにもつながります。
利用用途の検討と現地環境の調査で得られた情報を基に、システム全体の構成や要件を整理した上で、無線通信への要件を明確化します。
利用用途に基づき、システム全体で必要となる構成要素を検討します。アプリケーションの内容やハードウェアのスペックを決めることで、必要なスループット、通信距離、遅延許容範囲、通信タイミングなどの要件が導き出されます。その上で、通信要件に適合した無線通信規格を選定していきますが、この際、現地調査で得られた環境条件も十分に考慮して行います。
例えば、プラント工場で「自走ロボットに搭載したカメラによるガス漏れ検知のリアルタイム監視や制御を行う」という用途を想定した場合、高解像度カメラや赤外線カメラで撮影した大量のデータを転送する大容量通信と、自走ロボットの制御のための低遅延通信が必要です。
さらに、プラント工場は大規模であるため一定の通信距離が必要であり、金属構造物が存在する環境を考慮しなければなりません。このような条件下では、大容量、低遅延通信が可能なローカル5Gのsub6帯を通信規格の候補として検討することが適切と考えられます。なお、通信規格の選定目安については、ガイドラインにも記載されていますので参照ください。
また、既存のネットワークとの互換性や導入コスト、運用負荷なども考慮すると良いでしょう。この段階で通信要件を詳細に整理することで、適切な通信規格選定が可能になり、導入後のトラブルを最小限に抑えることができます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.