本連載ではNEDOが公開している「製造現場における無線通信技術の導入ガイドライン」の内容を基に製造現場への無線技術の導入について紹介する。第3回は、製造現場で無線通信技術を効果的に利用するためのユースケースを紹介する。
製造業のデジタル化が進むと、多くのプロセスが無線通信技術に依存します。デジタル化の効果を最大化するためには、無線通信技術の安定的な導入・運用が必須です。本連載では、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公開している「製造現場における無線通信技術の導入ガイドライン」に基づいて、製造現場への無線通信技術の導入について紹介しています。
今回は、製造現場で無線通信技術を効果的に利用するためのユースケースを紹介し、それぞれのユースケースに使用する無線通信規格の候補、導入時の課題とその対策を解説します。
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ガイドラインでは、製造現場で想定される無線通信技術の活用シーンを「中小規模工場」「大規模工場」「プラント工場」の代表的な3種類の製造現場を例として紹介しています。
それぞれの無線通信技術の活用シーンでのユースケースと、期待される導入効果、機能要件と使用する無線通信規格の候補、導入時の課題とその対策を詳細に解説しています。本稿では、全てのユースケースを網羅することはできませんが、代表的な事例を取り上げます。さらに詳細を知りたい方はガイドラインをご参照ください。
中小規模工場では、限られたスペース、空間の中で、効率的かつ干渉が発生しないように無線通信技術を活用することがポイントになります。このような工場では、在庫管理、製品カウントや工作機械の遠隔モニタリングなど、従来は手作業に頼っていたプロセスを無線通信技術によって自動化する取り組みが進んでいます。
ここでは、現場で利用が多くみられる代表的なユースケースである「センサ情報を用いた在庫管理」と「工作機械の遠隔モニタリング」について解説します。
ガイドラインでは、他の事例として「工場内の設備や備品に関する資産管理」や、今後のニーズとして期待されている「カメラ画像を用いた製品の異常検知」についても詳しく説明しています。
従来、在庫管理はバーコードスキャナーなどを使って手動で行っていましたが、RFIDタグやBLEビーコンを在庫に付け、在庫の位置、重さなどのセンシング情報をWi-Fiなどを用いた通信により中央システムに送信することで、全体の在庫状況が可視化されるため、リアルタイムの在庫管理が可能となります。
これにより、棚卸し作業の効率が向上するとともに、ミスや人為的なエラーも無くすことができます。ジャストインタイム生産の実現には、リアルタイムの在庫情報が重要であり、無線通信技術がその基盤を支えています。
一方で、2.4GHz帯のWi-FiやBluetoothなどは、小規模な工場内だと他の無線機器との干渉が発生しやすく、通信の信頼性に影響が発生します。これを防ぐには、周波数やチャネルの管理、適切なアンテナ配置(空間を分ける)などの対応が必要となります。
干渉の少ない5GHz帯のWi-Fiや、近年注目されているWi-Fi 6E(6GHz帯)を活用するなど、周波数を分けて利用することも効果的です。
設備の故障は生産ライン全体の停止につながるため、異常によるダウンタイムの発生を可能な限り防ぐことが求められます。工作機械などにセンサーを取り付け、機械の稼働状態や振動、温度、異音などのデータをリアルタイムに収集して監視することで、異常発生や異常予兆に即座に対応することができるようになります。
なお、リアルタイム性が必要なモニタリングシステムには、ローカル5GやWi-Fiなど、遅延が少ない無線方式を使用します。
一方、リアルタイム性が必要ないモニタリングシステムには、消費電力低減を目的にLPWA(Low Power Wide Area)を使う場合もあります。LPWAは低消費電力で広範囲の通信が可能で、工場内に障害物が多い場合でも使用できるため、長期的なデータ収集が必要な予防保全においては有効な手段となります。
工作機械の周辺での作業者の移動や製造現場のレイアウト変更などにより電波環境が変わると通信不良が生じる可能性があるため、適宜、電波状況を確認し、アンテナ位置の変更や反射板の設計などを行うことも効果的です。
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