大規模工場では、中小規模工場に比べて、無線通信技術の導入規模や適用範囲がさらに広がります。複数の製造ラインやエリアをカバーする必要があるため、複雑なネットワーク構成や広範囲への通信カバレッジが必要となります。
ガイドラインでは、ユースケースとして、「工場内の環境センサで取得したデータの管理」「映像伝送による複雑な現場作業の支援」「AGV等の移動ロボットの遠隔制御」について詳しく説明しています。
ここでは大規模工場のユースケースのうち、「映像伝送による複雑な現場作業の支援」と「AGV等の移動ロボットの遠隔制御」について解説します。
熟練作業を要する現場では、人手不足対策と品質確保を両立するために、熟練者が現場に出向かずに遠隔で作業支援を行える映像伝送システムのニーズが高まってきています。
このシステムでは、作業者が装着するウェアラブルカメラや固定カメラからの映像がリアルタイムに送信され、管理者や熟練者が遠隔地から状況を確認しながら指示やサポートを行います。Wi-Fi 6やローカル5Gなどの高速無線通信技術を活用することで高精細な映像をスムーズに転送でき、迅速な判断と指示が可能となります。
一方でこのケースは、対人コミュニケーションになるため、体感として遅延を感じると急激に作業効率が低下します。
この対策としては、干渉回避はもちろんのこと、データ通信のアップリンクとダウンリンクの伝送割合を調整し、アップリンク側のデータ伝送速度を増加させることで、現場の映像をしっかりと届けられるようにすることなどが必要となります。
AGV(自動搬送車)やAMR(自律型移動ロボット)の活用は、大規模工場の生産効率を向上させるための重要なユースケースとなります。
これらの搬送車両は、製品や部品を工場内で自律的に運搬しますが、稼働状況(位置情報、到着通知など含む)をリアルタイムで把握し、走行指示をするために無線通信技術が必要になります。主に使用されるのはWi-Fiとなり、AGVの移動範囲が広い場合は、複数のアクセスポイントを設置したり、メッシュネットワークを構築したりします。
一方で、電波干渉には十分に気を付ける必要があり、チャネルや周波数帯を分ける対策などが必要です。なお、ローカル5Gのような高速、低遅延かつ干渉のリスクが低い無線通信規格の使用も1つの対応手段となり得ます。
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