旭化成は、材料の新規用途探索や製造現場の技術伝承で生成AI(人工知能)の活用を開始した。
旭化成は2024年12月9日、材料の新規用途探索や製造現場の技術伝承で生成AI(人工知能)の活用を開始したと発表した。過去のデータやノウハウなど、これまで蓄積された無形資産の活用を生成AIによって加速し、競争力強化や事業上のリスク低減を目指す。
新規用途探索とは、既存の材料や開発した材料の新たな用途を見つけることを指す。従来は、専門性を持つ従業員の調査/分析によって用途の候補を考案し、その中から有望なものを絞り込んでいた。
また製造現場では、事故や災害を防ぎ安全に設備を運用するために、作業前に想定されるリスクを洗い出して対策を図る「危険予知」の活動を行っているが、熟練社員の高年齢化と退職により、ノウハウの継承が課題となっている。
そこで同社は、専門の人材と各事業領域の連携により用途を自動抽出するAIと、その中から特に有望な用途候補を抽出する生成AIを開発した。これらのAIを用いて、既に膨大な文献データから6000以上の用途候補を考案した他、ある材料では用途候補の選別にかかる時間を従来の約40%に短縮できた。
同社はこの生成AIを活用することで、専門家のアイデアと同等の用途候補を短時間で考案できることに加えて、より革新的な発想が可能になるとしている。
さらに従来は個人の経験を基に作業のリスクを予知していたが、過去事例のデータを読み込ませた生成AIを活用することで、経験の浅い従業員でも抜け漏れなくリスクと対応策を洗い出し、安全性と効率性を高めるとともに、技術伝承を加速できるようになった。
今後は、材料化学や医療分野の新規用途探索で活用を進めていき、将来的には生成AIにより他社製品の技術分析を行うことで、協業先選定に活用することも視野に入れている。作業前の危険予知に加え、画像/音声など工場の各センサーから取得した非構造化データを解析し、作業中の危険回避にも役立てていく予定だ。
個人の業務で生成AIを利用する際には、各従業員が既存の生成AIツールを使いこなすスキルを持つことが重要だ。一方、各組織の業務に特化した用途では、そうしたスキルに加えて、ソフトウェアやITなどの技術/知識が必要となる。そのため、同社では個人と組織の利用の両面で、生成AIの活用を支援している。
個人利用では、「Microsoft 365 Copilot」などの既存サービスを活用し、個人の生成AI活用を促進している。従業員向けのデジタル教育「旭化成DXオープンバッジ」内で生成AIコースを開講し、日本マイクロソフトと連携しての教育プログラムを実施するなど、全社で人材育成を行っている。成果に関して一例を挙げると、書類作成や社内資料検索などに生成AIを活用し、業務全体として1カ月当たり2157時間の時間短縮を実現した。
組織利用では、社内のシステム開発者向けに生成AIモデル利用基盤を2023年12月に公開し、各組織のデジタルプロ人材がそれぞれの業務に合わせた生成AIを社内で構築、管理、運営できるようになった。
特に技術的難易度が高いテーマについては、生成AIの専任組織である生成AI/言語解析ユニットと工場などの生産現場を支援するスマートファクトリー推進センターが技術的支援を行い、必要に応じてシステムの開発などを行っている。成果について一例を挙げると、書類監査の対応においてニーズに合わせた生成AIを開発しプロセスを効率化して、年間1820時間の時間短縮を達成した。
同社は2023年5月にグループ全体で生成AI活用の支援をスタートし、業務の効率化を進めてきた。
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