東京科学大学は、約70%の高効率でスピン偏極電流を発生させ、塗るだけで成膜できる新たなキラル半導体高分子を開発した。スピンフィルターとしての性能を材料に付与でき、スピン偏極電流を用いるクリーンエネルギー技術への応用が期待される。
東京科学大学は2024年10月21日、約70%の高効率でスピン偏極電流を発生させ、塗るだけで成膜できる新たなキラル半導体高分子を開発したと発表した。スピンフィルターとしての性能を材料に付与でき、スピン偏極電流を用いるクリーンエネルギー技術への応用が期待される。大阪大学との共同研究による成果だ。
研究では、高い電荷輸送特性を持つインダセノジチオフェン(IDT)骨格自体にキラリティを導入した、二面性キラルIDT骨格を開発。これを含有するキラルな半導体性の高分子poly-(S,S)-ITD, poly-(R,R)-IDTが、回転塗布により容易に薄膜を成膜できた。膜厚は20nm程度と薄く、CISS効果により70%近い偏りを持つスピン偏極電流を発生させる、高性能なスピンフィルターとして機能することが分かった。
スピン偏極電流は電子スピンの向きが一方向に揃った電流のことで、その偏りの度合いはスピン偏極率で示される。スピン偏極率約70%という値は、これまでのキラル半導体高分子では最高クラスとなる。
優れたスピンフィルターとしての性能を発現した原因の詳細は分かっていないが、CISS効果を観察できた1つの要因は、回転塗布で均質なアモルファス膜を形成したことだ。また、導電性に直結する主鎖のIDT骨格自体がキラルであることが起因し、高いスピン偏極率を示した可能性が示唆される。
これらの成果により、希少元素を含有しない有機高分子材料から高効率にスピン偏極電流を発生させることが可能になった。これを活用した酸素発生、酸素還元などのクリーンエネルギー技術の高効率化が期待できる。また、スピン偏極電流を活用した円偏光発光ダイオードなど、新たな有機エレクトロニクス素子の開発にもつながる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.