MONOist クロスBUで新たな価値提案を進めていくためのポイントについてどう考えていますか。
阿部氏 さまざまな強みを持つプロダクトやサービスを組み合わせて価値を高めていくためには、ソフトウェアの力が重要になる。ソフトウェアといっても仕様が決まったものを構築する力ではなく、顧客やパートナーと一緒に課題を探りながら最適な形に構築することが必要だ。そこで大きいのが、2021年7月に買収をしたグローバルロジックのケイパビリティとなる。
グローバルロジックはデジタルエンジニアリングサービスを提供している。「Chip-to-Cloud」としてクラウド領域でのシステム構築なども行っているが、エッジ領域に強い部隊もおり、そこがCIセクターのカウンターパートとなっている。エッジ領域でのシステム構築の知見があるために、さまざまな現場からのデータを活用し、価値を創出するためのシステム構築などを容易に行える。そのため、産業用機器などを組み合わせたさまざまなデジタルサービスの展開を早めることができる。
将来的には、業務における知見やノウハウなどをデジタルアセット化した無形固定資産を作っていくことを目指しそのための仕組みづくりに取り組む。
CIセクターはさまざまな顧客を抱えており、現場の困りごとに直接アプローチできる。それらの課題を解決するためのシステムをアジャイル開発ですぐにプロトタイプとして構築し、グローバルロジックを通してエンジニアが形にする。そしてその解決モデルを無形固定資産化し、水平に展開できるようにする。そういうサイクルを作り出していく。既存事業についてはそこが成長のカギを握ると捉えており、その仕組み作りが投資領域だと考えている。
また、現在はCIセクター内のクロスBUでの価値創出にとどまっているが、今後はクロスセクターでの新たな価値創出により積極的に取り組んでいく。
例えば、製品がコネクテッド化していく中でプロダクトセキュリティの重要性も高まっているが、それを個別に対策を取り入れるのは難しい場合も多い。そこで、デジタルシステム&サービス(DSS)セクターのサービスを使って、コストを抑えた形で脆弱性管理などを実現する。さらに、こうした枠組みが社内で本当に価値があると確認できれば、CIセクターで抱えるさまざまな製造業の顧客に、同様のサービスを提案できるようになる。
DSSセクターのセキュリティサービスを一方的に使うのではなく、製造業として使いやすい形にCIセクターとしても提案を行い、一緒に使いやすく安全なソリューションに仕立て上げていけるような姿を目指していく。DSSセクターとのクロスセクターの取り組みだけではなく、グリーンエナジー&モビリティ(GEM)セクターとの連携でも、需要家サイド側の課題やエネルギーの活用状況などを共有し、新たな課題解決や価値創出を進めていけると考えている。クロスセクターで「One Hitachi」での提案を強化していく。
MONOist あらためてCIセクターの強みをどう捉えていますか。
阿部氏 CIセクター内でさまざまな場を持つ点ももちろんだが、最も大きな強みは、多様なグローバル企業の顧客ベースを抱えている点だと考えている。多様な顧客ベースがあり、さらにそれに伴う多様なパートナーがいる。自動車産業やバッテリー産業、バイオやヘルスケア産業、半導体産業やデータセンターなど、伸びる顧客のチャンネルがあり、その現場の話が聞ける立場にある。
これを生かしてOne Hitachiで課題解決を進めていく。さらにOne Hitachiでも足りない部分は、パートナーを巻き込んで、企業の壁を越えて価値創出に取り組んでいく。ここまでの数年間でそういう企業文化としてもそういうことが行いやすい環境ができてきた。それを伸ばしていく。
豊富な顧客ベースで社会が抱える真の課題へのタッチポイントを持ち、そこに向けて日立製作所グループの持つ豊富なソリューションを結び付けて価値化していけるという点から、私は日立製作所の将来の成長をCIセクターが握ると考えている。その責任感を持って取り組んでいく。
MONOist 現在課題として捉えているのはどんなことですか。
阿部氏 課題はいろいろあるが、最も大きなものは所属する各個人が自ら価値を高め挑戦していける土壌を作るところだと考えている。CIセクターはミッションクリティカルな事業領域も数多く抱えているので業務でリスクを取ることはできないところも多くあるが、事業創出という点ではリスクを取りながら新たな挑戦をしていくことは、専門領域の間を飛び越えて価値創出をしていく今後はより重要になる。
事業としてクロスBUやクロスセクターで新たな枠組み作りを進めやすい環境ができてきたので、それを一人一人が生かしていけるような文化を醸成していきたい。そのためには、納得と共感が得られるような戦略や仕組みが必要だと考えており、次期の中期経営計画ではそういう仕組みも盛り込んでいく。日立製作所ももともとはベンチャー企業だった。そのためには最も重要なのは人であり、人の力を引き出すことに力を入れる。
日立製作所は今もある程度好調な業績を残せているが、成長の本番はこれからだと考えている。個々の強いプロダクトがあり、それを支える技術があり、これらの価値をデータで結ぶITがあり、さらに豊富な顧客にアプローチできる体制もあり、それぞれの要素は出そろっている。あとはこれらを組み合わせることでより大きな価値創出を図っていくというフェーズだ。CIセクターで新たな挑戦を重ね、日立製作所全体のさらなる成長をけん引していきたいと考えている。
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