もう1つの変換技術が高窒素耐性嫌気MBR法になります(図4)。嫌気MBR法は、酸素が少ない条件で菌による処理を行う嫌気発酵の1つで、炭素をメタンに変換し、資源化します。この時に窒素化合物はアンモニウムに変換されます。つまり、炭素分も窒素分も資源にすることができる、一挙両得な方法と言えます。
一般的な嫌気発酵では、このアンモニウムが菌の活動を阻害してしまうことがしばしば問題となります。著者の研究グループが現在開発している技術では、アンモニウムが高濃度であっても発酵が進む菌を開発することで、アンモニウムを大量に生産し、資源化することを目指しています。嫌気MBRでは、さらに膜を利用し、効率的に処理を進めることで、短時間でのメタン発酵が可能となります。
さらに、嫌気MBR法の前処理として、膜濃縮を組み合わせる検討も進めています。前段に膜濃縮と組み合わせることで、水中の窒素化合物の濃度を上げられるため、効率的な変換ができるようになります。濃縮には正浸透(FO)膜濃縮を活用しています。FO膜については次回以降に紹介しますが、消費エネルギーが非常に小さな技術であり、濃縮によるエネルギー消費の増大を避けることができます。
図5に、嫌気MBR法に用いる微生物による、メタン発酵の例を示します。この研究では、海洋底泥や、他のメタン発酵から菌を採取し、アンモニウムが高濃度でもメタンを発生させることを目指しています。図5を見ると、最大アンモニウムが4000mg/L(約0.4%)であってもメタンが変わらず発生していることが分かります。このような菌を活用することで、高濃度でのメタン発酵が可能となり、効率的な処理を進められるのです。
今回は廃水中の窒素化合物をアンモニアに変換する技術を紹介しました。ただ、今回紹介した技術だけでは、濃度の低いアンモニアを含む水ができるだけです。ご説明した通り、このアンモニアを資源として活用するには、このアンモニアを濃縮して、使える形にする技術を組み合わせることが必要になります。次回からはこの濃縮技術を紹介していきます。
最後に少し、日本政府の動きをご紹介いたします。本連載第の第1回で紹介した通り、窒素廃棄物の環境への排出を顕著に減少させることや国家行動計画の情報共有については、2022年に国連環境総会で決議されています[参考文献5〜6]。
これを受け、日本でも2024年9月に「持続可能な窒素管理に関する行動計画」が策定されました。[参考文献6]。今後は窒素管理の動きが加速するでしょう。
産業技術総合研究所 首席研究員/ナノブルー 取締役 川本徹(かわもと とおる)
産業技術総合研究所(産総研)にて、プルシアンブルー型錯体を利用した調光ガラス開発、放射性セシウム除染技術開発などを推進。近年はアンモニア・アンモニウムイオン吸着材を活用した窒素循環技術の開発に注力。2019年にナノブルー設立にかかわる。取締役に就任し、産総研で開発した吸着材を販売中。ムーンショット型研究開発事業プロジェクトマネージャー。博士(理学)。
[1]有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(3)日本の窒素管理の現状、1年に下水として流れ込む水の中に48.4万tの窒素(2024年9月18日確認)
[2]有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(6)排水中の窒素化合物を除去/回収する技術の現在地(2024年9月18日確認)
[3]「ムーンショット目標4 成果報告会2023」の開催報告: 産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出―プラネタリーバウンダリー問題の解決に向けて(2024年9月18日確認)
[4]有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(1)脱炭素とマイクロプラスチックに続く第3の環境課題「窒素廃棄物」の厳しい現状(2024年9月18日確認)
[5]第5回国連環境総会再開セッション(UNEA5.2)の結果について(2024年9月18日確認)
[6]「持続可能な窒素管理に関する行動計画」の策定について(2024年10月5日確認)
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