カーボンニュートラル、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物排出の管理(窒素管理)、その解決を目指す窒素循環技術の開発を概説しています。今回は水中の希薄なアンモニアを濃縮し、資源化する膜技術を紹介します。
今回も引き続き、廃水の話です。前回は、廃水中のタンパク質などの窒素化合物をアンモニアに変換する技術を紹介しました。ただ、単にアンモニアに変換するだけではそのアンモニアを有効活用することはできません。もともと、廃水中の窒素分はそれほど濃度が高いわけではありません。多くの場合は、資源として利用するには濃度が薄すぎ、そのまま海や川に放流するには濃度が濃すぎる、というとても中途半端なケースが多いのです。
この場合は、窒素化合物をアンモニアに変換しても、結局資源利用には薄すぎ、放流するには濃すぎる、という状況は変わらないのです。そのため、解決方法として「分離濃縮」が必要になります。つまり、アンモニアだけを取り出し、濃度を高めることでさまざまな用途に利用できる資源にする方法が必要なのです。
分離濃縮に関して、前回と同じ図ですが、改めて著者の研究グループの考え方を示した図を紹介します(図1)。図1ではまず生物処理で窒素化合物をアンモニアに変換した後、超省エネなアンモニア分離/濃縮を行います。この後段が今回の主役です。著者の研究グループではこの分離濃縮に2つの技術を活用しています。1つは膜技術で、もう1つは吸着技術です。今回は特に膜について紹介します。なお、ここでいうアンモニアは、アンモニア(NH3)、アンモニウムイオン(NH4+)を含む総称として使います。どちらかを指定するときは、化学式も利用しながら説明します。
アンモニアの分離濃縮に利用できる膜法として、今回は著者の研究グループがムーンショット型研究開発事業で開発を進める4つの膜法を紹介します(図2)。4つの膜法は「正浸透(FO)膜法」「BC法」「イオン交換膜法」「膜蒸留法」で、それぞれが省エネ性や利用できる濃度範囲、選択性などに違いがあり特徴があります。単独で利用する場合もあれば、組み合わせて利用することもできます。例えば、500mg/Lの薄いNH4+の溶液から、30%のNH3水を製造する場合は3つの方法を組み合わせます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.