FO膜法は消費エネルギーが極めて小さいことが特徴です。FO膜は中学/高校で習った半透膜のような膜で、水だけを通します。アンモニアを含む廃水と、塩濃度が高い海水でFO膜を挟むと、塩濃度を平均化するように水が廃水から海水に移動します。その結果、廃水の濃縮ができるのです。この現象は自然に起こるもので、圧力をかけたりする必要はないことから、非常に小さなエネルギーで濃縮ができるのです。
似た濃縮法に、海水淡水化などで利用されるRO膜法があります。この方法は、圧力をかけ、FO膜法とは逆方向に水を移動させる方法です。つまり、FO膜法は自然の力を使った濃縮で、RO膜法は電気などを使った濃縮、といえるでしょう。FO膜法はこの非常に省エネであること、FO膜を並列で増やすことにより処理量を増やせることがポイントといえるでしょう。
ただ、海水を使ったFO膜法は、海水の塩濃度が高いことを利用していますので、海水より高い濃度までの濃縮できません。FO膜法では濃縮できない濃度まで濃度を上げる方法として、BC法が利用できます。BC法も水だけを通す膜を通す方法でRO膜法に似ていますが、濃縮した液の一部をまた膜に戻すことで膜を挟んだ液の濃度差を下げ、必要なエネルギーを減らす方法です。電気などの力を使うという点ではRO膜法と似ているのですが、RO膜法より省エネであることが特徴です。
イオン交換膜法も、BC法と同じ濃度領域で使える方法です。違いは、NH4+と他のイオンを分離することができることです。イオン交換膜法では、電圧をかけて、膜にイオンを透過させて濃縮します。
そのときに、特定のイオンだけを透過させることで、他のイオンとの分離ができるのです。NH4+を含む廃水では、しばしばナトリウム(Na+)やカルシウムCa2+などが共存していますので、それらを分離するのに活用できます。一方、消費エネルギーはBC法のほうが低いので、廃水の種類によってイオン交換膜法とBC法を使い分けることが重要です。
さらに高濃度を目指す場合には膜蒸留法を利用します。膜蒸留法は、FO膜法やBC膜法と一番異なるのは、膜を液体(廃水)と気体で挟みます。同法は液体中の蒸発しやすい物質を膜を通して蒸発させて濃縮する方法です。膜蒸留では水を通さない膜を利用します。廃水をアルカリ性にして、NH4+をNH3に変換した上で、そのNH3を膜を通して蒸発させるのです。この方法で、30%を超えるアンモニア水の生産に成功しています。
著者の研究グループは、さらに高い濃度に濃縮されたNH3を生産する方法も開発しています。ラボ試験レベルですが、95%濃度のNH3を回収することにも成功しています。この方法では、膜蒸留とアンモニア吸着材を組み合わせて活用します。私たちの開発する吸着材はNH3を選択的に吸着することができます。その後、そこからNH3を取り出すことにより、高濃度のNH3を回収することができるのです。
今回は、膜濃縮法について紹介しました。それぞれの方法に、メリット/デメリットがありますので、廃水の種類や、生産したいアンモニア資源の種類によって活用する技術を使い分ける必要があります。逆にさまざまな技術を持つことで、多様な用途をカバーすることができると考えています。
産業技術総合研究所 首席研究員/ナノブルー 取締役 川本徹(かわもと とおる)
産業技術総合研究所(産総研)にて、プルシアンブルー型錯体を利用した調光ガラス開発、放射性セシウム除染技術開発などを推進。近年はアンモニア・アンモニウムイオン吸着材を活用した窒素循環技術の開発に注力。2019年にナノブルー設立にかかわる。取締役に就任し、産総研で開発した吸着材を販売中。ムーンショット型研究開発事業プロジェクトマネージャー。博士(理学)。
[1]「ムーンショット目標4 成果報告会2022」の開催報告: 産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出―プラネタリーバウンダリー問題の解決に向けて(2024年11月18日確認)
[2]「ムーンショット目標4 成果報告会2023」の開催報告: 産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出―プラネタリーバウンダリー問題の解決に向けて(2024年11月18日確認)
[3]膜分離によるアンモニア廃水濃縮・精製プロセスの開発、吉岡朋久他、化学工学会第55回秋季大会(2024年9月11日確認)
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