排ガス中の窒素酸化物は除去/無害化から資源化へ、アンモニアに生まれ変わる有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(8)(1/2 ページ)

カーボンニュートラル、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物排出の管理(窒素管理)、その解決を目指す窒素循環技術の開発について紹介します。今回は排ガスに含まれる窒素酸化物の資源化技術についてご紹介します。

» 2024年03月15日 08時30分 公開

はじめに

 今回取り上げるNOx(窒素酸化物)は排ガス中に含まれる環境汚染物質の1つです。そのNOxを資源化するための研究開発が盛んに行われています。今回はその研究開発の一端をご紹介します。

排ガス中NOxの問題と発生源

 NOxは内燃機関をはじめとする燃料などの燃焼によって主に発生し、排ガスに含まれる形で大気中に排出されてます。NOxは呼吸器への悪影響や光化学スモッグ/酸性雨の原因となることなどの問題が指摘されています[参考文献1]。本連載第4回で紹介した通り、NOxの発生源は、固定発生源、自動車、機械(建設機械、産業機械、農業機械など)、船舶となっています[参考文献2]。

 固定発生源とは、自動車や船舶といった移動するモノではなく、工場や発電所などの中に設置されている動かない装置類などを指します。固定発生源の内訳としては、ボイラー45%、窯業製品製造用焼成炉など13%、ディーゼル機関10%となっています[参考文献3]。自動車や船舶なども含め、ほとんどがエンジンなど、燃料を燃焼する装置からNOxが発生していることが分かります。

 なお、将来的には燃焼機器の一部は電気や水素(H2)利用に転換されていくと考えられます。この場合、NOxの発生はなくなるのでしょうか? 特に、自動車については燃焼機器の電動化が強く勧められています。例えば、電力中央研究所の試算によると、2050年には中立的な予測で、販売される自動車のうち85%は電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)といった、化石燃料燃焼を利用しないあるいは主体ではない自動車としています[参考文献8]。

 この推測が達成された場合、自動車からのNOx排出量は大きく削減されるでしょう。一方、発電所や船舶では水素/アンモニア(NH3)を利用した発電に移行したとしても、燃焼方式である限り、高温で空気中の窒素ガス(N2)が変化して発生するサーマルNOxの発生は避けられないため、NOxの排出は残るとの意見もあります。よって、将来的なNOx対策の対象は発電所などの固定発生源と船舶が中心になると考えられます。

既存のNOx処理法

 現在、多くのNOx処理では、NOxの資源化ではなく、NOxを除去/無害化しています。本連載第5回で紹介した通り、国内におけるNOxの主な処理方法としては、選択的触媒還元法(SCR)、無触媒脱硝システム(SNCR)が挙げられます。いずれも、NH3や尿素を還元剤として添加し、NOxを還元して、無害なN2に変換する仕組みです。また、炭化水素(HC)を還元剤として利用する炭化水素選択触媒還元法(HC-SCR)も一部実用化されています[参考文献4]。

 NOxを資源化する仕組みとしては、硝酸として回収する技術が一部実用化されています[参考文献5、6、7]。硝酸へ資源化する技術は、生産物が硝酸に限られる他、NOxの濃度が高い場合に限られるケースもあることなどから、SCR、SNCRなどにとって代わる状況にはなっていないようです。

新たなNOx資源化技術

 このような状況を受け、新たなNOx資源化技術の開発が進んでいます。今回紹介するのは、NTA(NOx to Ammonia)技術です。その名の通り、NOxをNH3に変換する技術です。NH3はハーバーボッシュ法で生産される窒素化合物の根本の物質で、肥料などで使われ、人間の産業活動に欠かせない物質です。さらに、近年は燃料などへの利用の検討も進んでいます。これらのことから、NOxをNH3に変換することで、より広範な場面での活用が広がると期待されています。

 図1にNTA技術の概要を示します。本技術では、排ガス中のNOxを還元剤と反応させNH3に変換し、そのNH3を脱硝(SCR)に利用します。NOxのNH3への変換率が50%になると脱硝時に外部からNH3を供給する必要がなくなります。

 さらに、変換率が50%を超えてくると、脱硝後もNH3が余るので、資源として活用できるようになります。最終的に全てのNOxをNH3に変換できれば、脱硝装置も不要となり、全てのNH3を資源として利用できるようになります。還元剤にはさまざまなモノを利用でき、その場で使えるものを活用します。

 例えば、例えば、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)+水蒸気(H2O)などを活用できます。燃料として炭化水素を利用している場合はそれを還元剤として利用することが考えられます。特に、今後は水素社会ということでH2が多様な場所で利用されることになるでしょう。その場合はH2を還元剤として利用すれば、CO2が発生しない脱硝技術になります。

図1 NTA(NOx to Ammonia)技術の概要 図1 NTA(NOx to Ammonia)技術の概要[参考文献8][クリックで拡大] 出所:スマートジャパン
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