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排ガス中の窒素酸化物は除去/無害化から資源化へ、アンモニアに生まれ変わる有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(8)(2/2 ページ)

» 2024年03月15日 08時30分 公開
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多様化するNTA技術

 NTA技術はこのように新たなNOx資源化法として期待されています。一方、対象となる排ガスは固定発生源に限っても、発電所、ごみ焼却場など、多様な場所があります。また、それぞれによって処理しなければならない排ガスの性状も異なります。そのため、さまざまな得意分野を持つ技術をそろえ、それぞれの場所で適切な技術が採用されるための基盤が必要になると考えられます。このような考え方に基づき、NTA技術でも表1に示す通り、複数の技術が並行して開発されています。

表1 各NTA技術の概要、メリット、得意分野 表1 各NTA技術の概要、メリット、得意分野[クリックで拡大]

 最初にご紹介するのは1ステップ式です。この技術は、触媒を塔などに充填し、そこに排ガスを通気するだけで含まれるNOxをNH3に変換する技術です。装置が簡単な構造であることが特徴で、設置スペースが限られる船舶などでの活用が期待されます。

 図2は1ステップ式NTAで処理したガス中の各物質の濃度を示しています。元のガスは1000ppmのNOxを含んでいます。約225℃でNOxから変換されたNH3と、残っているNOxの濃度が一致しています。つまり、この比率であれば、外から追加のNH3を導入することなくSCR法によりNOxを除去することができます。さらに、温度を上げていくと変換されたNH3が残っているNOxの量を上回っています。つまり、得られたNH3をSCRで消費しても、まだNH3が残り、資源として活用できるワケです。

図2 1ステップ式NTA処理後出口ガスの各物質濃度(入口NOxは1000ppm) 図2 1ステップ式NTA処理後出口ガスの各物質濃度(入口NOは1000ppm)[参考文献10][クリックで拡大] 出所:新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の資料を基に筆者作成

 次に2ステップ式を紹介します[参考文献11]。2ステップ式は、いったんNOxを吸着材で吸着/回収した後にその吸着材を加熱、脱離させてからNTA触媒に通気、NOxをNH3に変換する方法です。この方法では、最初の工程でNOxと酸素を分離することができるため、後段のNTA変換の際に酸素が共存せず、高効率でNH3に変換することができます。

 結果として90%以上のNOxをNH3に変換することができます。大規模処理が可能で変動にも強いことから発電所などの大きな固定排出源での活用が期待されます。

 図3にシステムの概要を示します。この場合、NOx吸着はハニカムローターを利用して行っています。ハニカムローターとは細かい穴の開いた大きなローターを回転させ、そこに通気する仕組みです。そのローターにNOx吸着材が保持されています。NOxを含んだ排ガスをローターに通気するとNOxだけを吸着し、窒素や酸素ガスは流れていきます。次にそのローターを加熱するとNOxが出てくるので、この仕組みで酸素を分離することができるのです。そうして回収した酸素が共存しないNOx含有ガスをNTA触媒塔に通気することで高効率なNH3の生産が可能となります。

図3 2ステップ式NTA技術の概要 図3 2ステップ式NTA技術の概要[参考文献11][クリックで拡大] 出所:NEDO

 最後に吸蔵方式です[参考文献12]。吸蔵式の概要を図4の左に示しました。この方法では、燃焼排ガスを、吸蔵材料を充填した容器に通気し、一酸化窒素(NO)を酸化して主にNO3-として吸蔵させます。その次に還元ガスを含んだガスを通気することでその場でNO3-をNH3に変換し、NH3が放出される、という仕組みです。特徴としては、温度を上下させる必要がなく、エネルギー的に優位であることや、共存物質の影響が少なく「汚い」ガスでも対応できることが特徴です。

 図4の右図は共存物質の影響を示したモノです。標準条件は悪影響を及ぼす恐れがある共存物質がない状況でのNH3への変換率を示しています。一方、10%のCO2、10ppmの二酸化硫黄(SO2)をガスに添加した場合でもNH3への変換率はほとんど変わらないことが分かります。このように、共存物質の影響を受けづらい吸蔵方式は、ごみ焼却場など排ガスの性状が安定せず、他の物質が排ガスに含まれる場所での活用が想定されます。

図4 吸蔵式NTAの概要と共存ガスの影響 図4 吸蔵式NTAの概要と共存ガスの影響[参考文献12][クリックで拡大] 出所:NEDO

最後に

 NOxをNH3に変換し、資源化するNTA技術を紹介しました。この技術が実用化されれば、これまでNH3を消費し無害化していたNOxを資源として活用することができるようになります。

 今後、さらなる耐久性の確認や、利用する還元剤の量を減らすなどの検討を進め、実用化を目指していくことになります。なお、得られたNH3を資源として利用するには、NH3を他のガスと分離し、濃縮する必要があります。こちらについては、次回、紹介します。

 最後に、本稿を執筆するにあたり、東京大学 教授の小倉賢氏や早稲田大学 招聘研究員の岩本正和氏、産業技術総合研究所 研究グループ長の木村辰雄氏には情報をご提供いただくとともに、原稿をご確認いただき、感謝致します。

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筆者紹介

産業技術総合研究所 首席研究員/ナノブルー 取締役 川本徹(かわもと とおる)

産業技術総合研究所(産総研)にて、プルシアンブルー型錯体を利用した調光ガラス開発、放射性セシウム除染技術開発などを推進。近年はアンモニア・アンモニウムイオン吸着材を活用した窒素循環技術の開発に注力。2019年にナノブルー設立にかかわる。取締役に就任し、産総研で開発した吸着材を販売中。ムーンショット型研究開発事業プロジェクトマネージャー。博士(理学)。


参考文献:

[1]環境再生保全機構「大気環境の情報館―排出物質:窒素酸化物」(2024年2月25日確認)
[2]第12回環境省微小粒子状物質等専門委員会(2020年6月26日)の資料2-2(2024年2月25日確認)
[3]「固定発生源からの汚染物質発生状況」、環境再生保全機構(2024年2月25日確認)
[4]HC-SCR(炭化水素選択触媒還元)触媒、キャタラー(2024年2月25日確認)
[5]NOx除去・硝酸回収装置、公害防止機器研究所(2024年2月25日確認)
[6]NOx recovery units、Bertrams Chemical Plants(2024年2月25日確認)
[7]NOx Adsorption、 GMM Pfaudler(2024年2月25日確認)
[8]2050年の電力需要の想定 電化や省エネはどの程度進むか?、スマートジャパン、アイティメディア(2024年2月25日確認)
[9]産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出―プラネタリーバウンダリー問題の解決に向けて、川本徹、ムーンショット目標4 成果報告会2023、NEDO(2024年2月25日確認)
[10]産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出―プラネタリーバウンダリー問題の解決に向けて―気相NOxの資源化:O2やH2Oの共存下、一段でNOをNH3に変換、岩本正和、ムーンショット目標4 成果報告会2023、NEDO
[11]産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出−プラネタリーバウンダリ−問題の解決に向けて−ハニカムローター型 2step NTA触媒システム開発、小倉賢、ムーンショット目標4 成果報告会2023、NEDO
[12]産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出−プラネタリーバウンダリー問題の解決に向けて−気相NOx資源化 −NOx吸蔵還元によるNH3の選択合成、木村辰雄、ムーンショット目標4 成果報告会2023、NEDO


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