廃水中の窒素化合物をアンモニアに変える技術有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(10)(1/2 ページ)

カーボンニュートラル、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物排出の管理(窒素管理)、その解決を目指す窒素循環技術の開発を概説しています。今回は廃水中の窒素化合物をアンモニアに変換する技術を紹介します。

» 2024年10月10日 07時00分 公開

 さて、今回からは廃水の話です。廃水中の窒素化合物が引き起こす問題については、連載の第3回で紹介しました[参考文献1]。国内で窒素含有廃水を放出していると報告している事業場の数は1万4000カ所を超え、下水などのふん尿処理を行っている事業場を筆頭に、旅館、畜産、食品産業、メッキ等を扱うの工業施設などさまざまな事業場から排出されています。

 下水に流入する窒素化合物は48.4万トン(t)に及び、そのうち硝化脱窒処理される窒素は約3分の1の17.6万tにとどまっています。

 環境中に排出される窒素化合物は富栄養化や硝酸汚染の原因となります。国内では例えば霞ヶ浦など、まだ全窒素濃度が環境基準値を超えている湖沼もあります。また、欧米などの大陸では河川が長く、ゆったりと流れることから水質汚濁が発生しやすく、日本より厳格な排水の管理が求められています。

 加えて、連載の第6回でご紹介した通り、現在の廃水中窒素化合物の処理はその多くが窒素ガスに無害化する方法です。この方法はエネルギーの消費が大きいなどの課題があります[参考文献2]。連載の第7回で紹介した著者の研究グループのプロジェクトでは、これらの課題を解決するとともに、窒素化合物を資源として活用する方法の開発が進んでいます[参考文献3]。

メリットはエネルギー消費が小さい点

 その方法の概要を図1に示します。その方法では、まず従来無害な窒素ガス(N2)に変換していた部分をアンモニウム(NH4+)に生物処理で変換します。その上で、その製造されたアンモニウムを膜や吸着の技術を活用して濃縮し、アンモニア資源として得る方法です。

 この方法は、エネルギー消費が小さいことが大きなメリットです。アンモニウムへの変換は、窒素ガスへの変換に比べエネルギーが小さく済みますし、後段の濃縮も、省エネルギーな方法を利用することで、窒素ガスへの無害化よりも低エネルギーで資源を得ることが期待されています。

図1 廃水中窒素からアンモニア資源を得る方法の概要 図1 廃水中窒素からアンモニア資源を得る方法の概要[クリックで拡大]

廃水中窒素化合物からアンモニア資源を回収

 アンモニウムに変換する技術として、まずご紹介するのは微好気変換技術です。この方法は、水処理施設で一般的に活用されている活性汚泥法用の水槽をそのまま利用しながらアンモニウムに変換することができる技術です。既存の施設を活用できるため、初期投資が少なくて済み、早期の実用化が期待されています。

 活性汚泥法では、窒素化合物は窒素ガスに変換されるのですが、その反応の途中で硝酸へ変換する硝化反応のために大量の酸素が必要となります。ここで酸素の供給量を減らして、硝酸への移行を抑制し、アンモニウムに変換するのです。酸素の供給量を減らすのは、水中に入れる空気の量を減らすことで調整します。これは、空気を入れるポンプの動力も減ることになり、省エネにつながるのです。

図2 微好気変換技術の概要 図2 微好気変換技術の概要[クリックで拡大]

 微好気変換を行った水処理結果の例を図3に示します。著者の研究グループで行う微好気変換の方法では、水処理後の水は放流するため、水中の汚れ成分はしっかりと除去する必要があります。汚れのうち、有機分を示したのが図3左側のグラフです。このグラフで汚れ成分は全有機炭素(TOC)です。図3ではこれが水処理後には90%以上除去されていることが分かります。一方、図3右側に示す窒素分は処理後にアンモニウムが増えています。つまり汚れ成分であるTOCは適切に除去し、窒素分はアンモニウムへ変換することを実現しているわけです。

図3 微好気変換による水処理の結果例[参考文献3] 図3 微好気変換による水処理の結果例[参考文献3][クリックで拡大]
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