式6の応力範囲の打ち切り限界Δσceを説明します。溶接継手にもS-N曲線があります。図9に溶接継手のS-N曲線の例を示します。例えば、応力範囲が40[MPa]のときの寿命は2×106[cycles]となります。そして、応力振幅が一定値の場合、応力範囲が23[MPa]よりも小さければ半永久的に壊れないことになります。応力振幅が変動する場合は、11[MPa]よりも小さければ半永久的に壊れないことになりますが、応力振幅が変動するときは考え方が複数あります。
図9の2×106[cycles]のときの強度と打ち切り限界の応力レンジは、完全溶け込み溶接、すみ肉溶接、荷重伝達型、荷重非伝達型で異なる値となります。S-N曲線は式8で表されます。
本連載の中で、「安全率が1[-]で破壊確率50[%]、設計では安全率を2[-]以上」と説明しましたが、今回の安全率は大きくても1.25[-]です。この理由を説明します。
まず、溶接部の疲労強度は大きくバラツキます。実験値で2倍、3倍のバラツキが出るのは普通です。筆者の手元のデータでは、溶接継手の疲労強度は母材の疲労強度の2分の1のデータもあれば、5分の1のデータもあります。図10は参考文献[1]のデータを見て筆者が勝手に作ったイメージ図です。式8の定数はバラツキのあるプロットの下限で決めているところがポイントです。式8は破壊確率が50[%]ではなく、かなり0[%]に近いと思っております。このような理由から安全率は大きくても1.25[-]でよいとされていると推測しています。
あと一つ言えることは、溶接継手の実験データは公称応力で整理されていることです。この結果、比較すべき応力は公称応力となります。図2の応力集中部の応力ではないのです。
応力振幅が変動するときの手順を説明します。線形累積損傷側を使います。簡単な例を使いましょう。通常の応力レンジは30[MPa]で、たまにドカーンと大きな応力レンジ80[MPa]が作用するケースを想定します。応力レンジと荷重回数を以下に記します。
次にS-N線図を使って、上記応力レンジが作用したときの寿命を求めます。図11のような感じです。
次の式9が成立すれば、溶接部は大丈夫となります。
数値を代入しましょう。式9が成立するので溶接部はOKとなります。
応力範囲が打ち切り限界を下回った場合は、3通りの考え方があります。1つ目は「損傷度合いはない」という考え方で、式11となります。この考え方を使う場合、半永久的に壊れないとの判断がされます。
2つ目は、S-N曲線を延長する方法です。これを「修正マイナー則」といいます。図11の黄色の線です。そして、3つ目はその中間のようなものです。これらの考え方では半永久的に壊れないとの判断ができません。
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