新時代迎えた「紙の写真」 20年間愛され続けるキヤノンのフォトプリンタの歴史小寺信良が見た革新製品の舞台裏(32)(2/5 ページ)

» 2024年07月31日 07時00分 公開
[小寺信良MONOist]

変わる写真の楽しみ方

――そんな時代から、携帯電話で写真が撮れる、いわゆる「写メ」の時代に突入して、カメラと電話機の戦いの時代に入っていくわけですけれども、SELPHYの立ち位置もある意味変わってきているのかなと。

牛谷氏 おっしゃる通り、そういった時代の流れを強く感じます。2000年から2010年ぐらいは、コンパクトデジカメが一気に伸びました。ガラケーやスマホとは写真を撮るデバイスという意味で競争していましたが、一方で写真の需要自体はスマホやコンパクトデジカメなど機器を問わずにどんどん増していった時代です。

 ガラケー全盛期の時代は、端末から直接プリントするための導線は整っておらず、写真をプリントするのであればデジカメからだろう、と私たちは強く意識していました。そこでPCを経由してインクジェットでプリントするのではなくて、カメラから直接プリントできるようなもの、より簡単、手軽に写真を楽しめるものが必要だということで、ダイレクトプリント方式の実現にこだわりました。

 そこで2000年代初期から、いわゆる「PictBridge」というダイレクトプリント方式の標準化にも取り組みました。新しい時代のプリントニーズを一緒に支えていきましょう、という意識で、業界団体で他メーカーと共同で進めました。

カメラ直結で印刷できた「CP710」(2005年) カメラ直結で印刷できた「CP710」(2005年)[クリックして拡大]
電源ケーブルなどのアクセサリーも一緒に持ち運べる「CP770」(2008年) 電源ケーブルなどのアクセサリーも一緒に持ち運べる「CP770」(2008年)[クリックして拡大]

 リーマンショック以降、世の中のさまざまなアクティビティーが一瞬下火になりました。その後、2010年以降にコンパクトデジカメに加えて、レンズ交換式のデジタル一眼レフやミラーレスカメラの普及のプリントニーズが再び盛り返してきました。こうした中で、今度はスマホが写真文化の中で徐々に台頭してきたのです。これによってお客さまの写真の楽しみ方も少しずつ変わってきました。

Wi-Fi対応となった最初のモデル「CP900」(2012年) Wi-Fi対応となった最初のモデル「CP900」(2012年)[クリックして拡大] 出所:キヤノン

 スマホで撮る機会が増え、誰もが毎日のようにSNSに写真をアップする。写真の楽しみ方が、プリントするよりも、ネット上で交換、シェアするところに移っていきました。一時的ではありましたが、プリントに対する需要が少し落ちていきました。

 ただ、2010年代後半からコロナ前にかけて、今度は若年層を中心に写真の楽しみ方が変わってきています。銀塩写真を知らない、Z世代を含めた若い世代の人たちが、「プリントするって新しいよね」「こんな楽しみ方があるんだ」と関心を持つようになったのです。

 写真を手帳に貼って、切り張りして楽しむ。スマホの本体とケースの間に写真を入れて、「ほら」と友人にすぐに見せられる。こうした形で写真を楽しむ方々が出てきています。そうした人たちがこのプリント需要をもう一度盛り上げてくれるというのが、ここ数年の潮流だと感じています。

手帳に貼って旅の記録を残す 手帳に貼って旅の記録を残す[クリックして拡大]

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