新時代迎えた「紙の写真」 20年間愛され続けるキヤノンのフォトプリンタの歴史小寺信良が見た革新製品の舞台裏(32)(4/5 ページ)

» 2024年07月31日 07時00分 公開
[小寺信良MONOist]

価格と画質のバランス感

――価格設定も、非常に買いやすいものになってますよね。

牛谷氏 今はCP1500と「SELPHY SQUARE QX10」の2機種を出してますが、1万8000円ぐらいの価格で販売しています。もちろん、もう少し安い方がいいというお客さまもいらっしゃるのですが、一方で、価格を抑えつつ画質も担保する商品自体の在り方を大切にしてきたのが、20年間もSELPHYが続いてきた理由だとも考えています。

L版やポストカードサイズに対応する最新モデル「CP1500」 L版やポストカードサイズに対応する最新モデル「CP1500」[クリックして拡大] 出所:キヤノン

鈴木勝基氏(鈴木氏) やはり画質にはこだわっていますので、可能な限り値段を下げつつ、機能面も満足していただける、そうしたバランスが一番いいところに落ち着いているのかと思います。

 他にも20年続けてこられた理由はありますが、その1つに本体のサイズ感もあると考えています。

 家庭用のフォトプリンタはお客さまが外に持っていくことも可能なサイズであることが望ましいかと思います。実はSELPHYのサイズは昔と比べてそんなに変わっていないのですが、今なお、幅広いお客さまが多様なシーンで使ってくれています。過去のコンセプトに基づくサイズ感の調整がうまくはまっているのかなと思います。

別売のバッテリーを付ければ完全ワイヤレスで動作する 別売のバッテリーを付ければ完全ワイヤレスで動作する[クリックして拡大]

――キヤノンのプリンタ製品を支える要素の1つに、インクジェットの技術力の高さがあります。一方で、SELPHYは昇華型熱転写方式をずっと採用されていました。こちらの方式を採用した理由やメリット、どのようなところがあるんでしょうか。

鈴木氏 昇華型熱転写方式は専用のフィルムに熱をかけてコーティングされた紙に印刷する方式で、一番の利点は簡単な構成で高画質な印刷物が得られるというところにあります。

 具体的に言うと、サーマルヘッドという発熱する部分の温度を制御することで、1つ1つのドット単位で画像の濃淡を表現できるようにしています。インクジェットだと、1滴を打つか打たないかで表現しますが、それとは異なります。「良い写真」と一口に言ってもさまざまな表現手法がありますが、粒状感の少なさや階調性の豊かさを目指して、昇華型熱転写方式を採用しています。

 また、この方式ではインクリボンといわれるフィルムに対してサーマルヘッドで熱と圧を掛けてYMCのインクを紙に定着させ、最後にコーティングとして、透明の層を印刷します。このコーティングによって写真を保護し、保存性を高めています。

――やっぱりオーバーコートして、長く残せる写真を作るっていうところが、まさにこの商品のポイントになりますね。

鈴木氏 そうですね。オーバーコートすることで水にも強くなりますし、お客さまが大切な写真を長く楽しんでいただけるようになるところがメリットです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.