デジタルツインを実現するCAEの真価

設計者CAEの取り組みで“再定義”すべき3つの項目設計者CAE教育のリデザイン(再設計)(5)(1/3 ページ)

連載「設計者CAE教育のリデザイン(再設計)」では、“設計者CAEの教育”に焦点を当て、40年以上CAEに携わってきた筆者の経験に基づく考え方や意見を述べるとともに、改善につながる道筋を提案する。最終回となる連載第5回では「設計者CAEの取り組みで“再定義”すべき3つの項目」について取り上げる。

» 2024年07月04日 08時30分 公開

 今回は、本連載の最終回として、設計者CAEに関わることについての「再定義」を提案し、その中身を説明します。これまでの連載と重複する部分もありますが、それは筆者が強調したい主義主張だとご理解ください。ここでは、再定義しなければならない3つの項目、「1.方向性」「2.CAE専任者」「3.CAE教育」について解説します。

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1.方向性の再定義

 CAEの活用には、時間軸に応じた段階があります(図1)。

CAE活用までのロードマップ 図1 CAE活用までのロードマップ[クリックで拡大]

 横軸は時間軸で、おおまかに“過去/現在/未来”としています。縦軸は“CAE活用までの道のり”になります。

 「過去」は昔というよりも、“これまでにやってきたこと”という意味です。CAEを活用するためには、まずはCAEツールを購入しなければなりません。そのために必要と思われるソフトウェアを調査し、ベンチマークを行い、稟議(りんぎ)を上げて予算取りを行い、やっとソフトウェアの購入にこぎ着けます。この作業はCAEに知見がある人しかできません。そして、この人たちが「なし崩し」的にCAE専任者となっていきます。

 経営者というものは、常に投資効果を気にします。購入したソフトウェアが使われているかどうか、設計や製造に役立っているかどうか、をCAE専任者に問います。その問いに応えるために、CAE専任者は、会社内にCAEの文化や風土を定着させようと努力します。教育を中心としたCAEの普及活動、自社製品へのCAE適用事例などなど。まさにCAE文化を創るフェーズです。

 この人たちの努力によって、CAEの必要性を論じることがなくなるほど、CAEの地位は向上しました。

 そして、CAEは次のフェーズに移ります。これからCAEをどうしていくか――。それがまさに「現在」です。

 筆者はこれまで、たくさんの企業で設計にCAEを活用するお手伝いをしてきました。CAE専任者の方々の努力で、既にCAEツールは導入されていることがほとんどです。ところが、その活用がうまくできていない、というのが主な相談でした。

 やることは決まっていました。CAEツールの操作教育を行い、手順書を作り、講習会を通じて設計者に提供する。設計者が分からないこと、できないことは、CAE専任者がサポートする。この単純な方法で、CAEはそれなりに社内に広まりました。この方法は王道でしたし、今でも王道です(図2)。

設計者に対するCAEの展開方法(これまで、そして今も……) 図2 設計者に対するCAEの展開方法(これまで、そして今も……)[クリックで拡大]

 ところが20年ほど前から、この方法が通用しなくなってきました。製品のライフサイクルが短くなり、設計の仕事量が増えたからです。CAE活用の王道は仕事量の増加の重力に耐え切れなくなってきたのです。

 設計の時間は短縮される一方で、CAEは設計プロセスからはみ出て、プロセス外へ追いやられました。結果、CAEの活用は遠ざかりました。

 この現状を踏まえて「未来」のCAE活用を設計することが、「現在」で非常に重要なフェーズとなります。今がまさに「分水嶺(れい)」であるといえます。

 本連載でも述べてきた通り、CAE活用の最重要項目は「時短」です。設計目標値が上がり、期間が短縮できるものであれば、設計に使わせる努力など必要なくなります。

 操作教育⇒手順書作成⇒サポートという王道を最適化して、上の命題をクリアすることも可能ではあります。事実、ほとんどの会社がいまだこの方法でCAE活用を推進しています。

 しかし、この方法は「学問に王道なし」の言葉通り、それなりに時間を要します。王道の最適化にも限度があり、設計の要求に耐え切れなくなりつつあります。

 そこで「現在」は、CAEを全社展開する基盤作りを提案します。連載第3回で述べた通り、CAEは第4の科学であるデータ科学に向かいます。そのために、行うべきことは以下の3つです。

  1. CAE活用のビジョンとグランドデザインの明確化
  2. 解析/実験データの収集と整理の仕組み作り
  3. 解析の自動化/自律化のための方法論策定

 目指すべき未来は、CAEが設計プロセスに溶け込んで、見えなくなる「ステルス状態」になることです。そこにはもう、CAEを使う/使わないといった議論は存在しません。

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